ただ、この悪口に耐えるしかない。

だけど、こんなにも聞こえる声で悪口を言われて平気でいられるほど私の心は強くない。

無意識にスカートをぎゅっと握りしめる。

耐えるんだ。彼はもっと辛い思いをしたんだから……。


「ほんとうざい」

「どっか行けばいいのにね」


悪口がヒートアップしていく中で突然、両耳に何かが突っ込まれて悪口が聞こえなくなった。

その代わりに今流行りのアーティストの名曲が耳に流れて込んできた。

ハッと弾けたように視線を上げると、そこには前の椅子に座り、私の机に頬杖をつきながらにっこりと微笑んでいる滝沢くんがいた。


“これいい曲でしょ”


口の動きでそう言っているのが分かった。

もしかして……私のことを気遣ってイヤホンを耳につけてくれたの?

耳元から流れてくる音楽はゆったりとしたラブソングで私も最近よく聴いている曲だった。

すると、滝沢くんが椅子から立ち上がって「ちょっと、待ってて」とまた口パクで言うと悪口を言っていた女子たちのほうに向かっていった。

何を話しているのか分からない。

だけど、女子たちは悪い顔をしていないし怒っている様子もない。