「楠川さん、授業中ですよ」
突然、少し高い女性の声が耳に届き、ハッと弾けたように顔を上げるとそこにいたのは周りから美人だとチヤホヤされているまだ若い新米の先生だった。
そうだ……今はまだ授業中だったんだ。
どうやら、いつの間にか眠ってしまっていたらしい。
「……すみません」
ぽつり、と呟いた声は先生に届くか届かないかくらいの弱々しい小さな声だった。
夢、か。
当たり前だよね……彼になんて会えるわけがないのに。
もう、渉くんは遠いところにいるんだから。
私がどんなに手を伸ばしても絶対に届かないところにいってしまったんだ。
頭を優しく撫でられた感触は今でもはっきり覚えていて、少しも消えることがない。
……渉くんの嘘つき。
ずっとそばにいるって言ったのに。
彼はもう私のそばにはいない。
距離、なんてものでは測れないほどはるか遠くにいて、私がどれだけ会いたいと願っても、泣き喚いても、君には会えない。
「しっかりしてね」
「……はい」
クラスのみんなからの視線が痛いほどに突き刺さる。