「……あんたなんて好きにならないから」
震えた小さな声で言うと俺の腕を振り払ってスタスタと先に歩き出してしまう。
あの小さな背中には俺の知らない何かが重くのしかかっているんだろうか。
楠川をこんなにも変えてしまった何かが。
楠川……俺はどんなお前も好きだよ。
こんなに人を好きになれるなんて知らなかったんだ。
本気の恋なんて俺にはできないと思っていた。
でも、君に出会えて俺は変われたんだ。
出会った瞬間、柄にもなく運命だと思ったよ。
あー、マジで“運命の人”っているんだなって。
「一緒に帰るとは言わねぇから後ろからついて行く」
「なにそれ。ストーカーじゃん」
分かってる。そんなのことくらい。
だけど
「お前を一人で帰らせたら俺は後悔する」
きっと、ここで離れてしまったらあとから“無事に家に帰れてんのかな”とか“やっぱり送っていくべきだった”とか色々考えてしまうのが目に見えているから。
「……勝手にすれば」
それだけ言うと楠川は再び、足早に歩きだす。
俺も見失わないように一定の距離を保ちながらついていく。
楠川の家は俺の家からは少しだけ離れているけれど思っていたよりも近くて驚いた。