「……何がよかったの?こっちはいい迷惑なんだけど」


素直じゃねぇよな。
本当は連れていかれなくてホッとしてるくせに。

怒った口調で言う楠川は何を考えているのか俺にはさっぱり分からない。


「俺が助けなきゃお前は今頃アイツに何されてたかわからねえんだぞ?」


分かってんのか?
好きでもない男と体を重ねるんだぞ?

見るからにピュアで純粋そうなお前にそんなハードルの高いことができんのかよ。


「……っ。別に……それでもよかったの」

「何言ってんだよ、バカじゃねぇの?」


いくら口では強がっていても全部、顔には出ている。

キッと鋭く睨まれるけれど、怖いとも思わない。
むしろ、可愛いと思っているのは彼女には秘密だ。

つーか、睨みたい気持ちなのは俺の方だしな。


「……抵抗する理由が私にはないし」


抵抗する理由がないだと?
本当に楠川はバカなんだな、とこの時、俺は確信した。


「自分の身を守るのに理由とかいんのかよ」

「……あんたはいらないけど、私はいるの!」


なんだよそれ。意味不明だし。
自分だけ世界から見放されているような言い方をして悲劇のヒロインぶるのはやめろよ。