『ただ、手術をしてしまったら……君は聴力を失ってしまうことになる』

『……え?』


今までずっと俯いたまま、黙って説明を受けていたけれど、その言葉に弾けたように顔を上げ、思わず声が洩れた。

だって、耳が聞こえなくなるって……。

そんなの、嘘だ。信じたくない。

俺はまだ18歳で、人生これからだというのに俺の生きる世界は音が消えてしまうのか?

母さんはどうするんだ?
記憶もなく、麻痺が残っている母さんは一人では生きてはいけない。

だからといって、ずっとこのまま病院に入院させるわけにもいかない。もうすぐリハビリを終えて、退院できるらしい。

そしたら、俺が近くで見守って生きていこうと思っていたのに。


『なんで……なんで俺なんだよ……っ』


どうしてだ。どうして俺なんだ。

どうして俺ばかりこんな目に遭わないといけないんだ。


『快人くん……手術をするかしないかを決めるのは君だ。きっと今の君にとっては信じたくないことですぐには決断できないだろう。それに耳が聞こえなくなる恐怖や不安は計り知れないと思う。ただ、自分のこの先の人生の為によく考えてほしい。でも、俺は医者としてはもちろんだけど、ずっと君を見てきた大人として君に生きていてほしい、ということだけは覚えておいて』


平尾先生が俺の震える手を取って、そっと包み込んでくれる。

その手があまりにもあたたかくて、鼻の奥がツンと痛んで、じわりと視界が歪んだ。