母さんは俺の頬に手を当ててそう言うと、陽だまりのように柔らかく微笑んで、そっと涙を流した。

そんな母さんに俺もつられるように涙が瞳からこぼれ落ちた。


「母さん……っ、ごめん……っ」

「何を謝っているの?快人が謝ることなんて、ないじゃない」


今度は母さんが俺をなだめるように背中をさすって優しく言う。


「俺は……母さんを施設に……っ」


俺がこんな弱くなかったら、母さんとずっと一緒にいられたのに。


「いいのよ。その代わり、またいつか会いに来てね」


俺の尊敬する母親はどこまでも優しくて強い人だ。
本当はとても辛いし、寂しいだろうにそれを見せない。

少しくらい、見せてくれてもいいのに。と子供ながらに思う。

母さんを見ているとどこかハルと似ているところがある。だから、俺は余計ハルに惹かれたのかもしれない。


「もちろん……っ」

「陽音ちゃんも連れてきてね?」

「ああ、分かってるよ」


すべてを思い出さなくていい。
このまま、記憶が抜け落ちていてもいい。

だけど、親子だという関係だけはなかったことにはならないでほしい。