父親のいない俺のために寂しくならないようにめいいっぱい愛してくれていたことも、生活費などを稼ぐために朝昼晩、眠いのも我慢して仕事してくれていたのも、全部わかっている。
忙しいのに参観日や運動会は必ず来てくれていたし、俺の心の中は母さんとの思い出で溢れている。
もちろんいいことばかりじゃないけれど、それ以上に愛された記憶がたくさん残っている。俺は母さんがいたから、幸せなんだ。
どんなに辛くて、苦しくても乗り越えて生きてこられたのは母さんが俺を支え続けてくれていたからなんだよ。
「なぁ、母さん……最後に俺のお願い聞いてほしいんだ」
「……な、に?」
「俺の名前呼んで、笑って」
そんなことを言われると思ってもいなかったのか目を丸くして驚いている母さん。
まるで“そんなことでいいの?”とでも言いたげな表情だ。
でも、俺はそれがいいんだ。
母さんが俺の名前を呼んでくれることや優しく笑いかけてくれることのありがたさや、嬉しさがこの三年間を通して痛いほど良くわかったから。
「私のところに生まれてきてくれて、ありがとう。快人」