「私の息子の快人はまだ小学5年生で……」

「違う、違うよ。母さん。母さんの息子の快人はもう高校3年生なんだ」

「そ、そんな……っなんで……?ありえない……っ。そんなわけ……」


俺の言葉を聞いて、信じられないという表情を浮かべ、両手で頭を抱えて取り乱している母さん。

俺の判断で母さんには記憶がないことを話していなかった。

離せば、きっと今みたいに混乱して思い出せない自分を責めると思ったからだ。

覚えていないのなら、忘れたままでいい。
母さんが苦しむところなんて見たくなかった。

ただでさえ、左半身に麻痺が残って思い通りに体を動かせなくなってしまったのにそれに加えて記憶喪失だなんて重荷を背負わせることはしたくなかったのだ。

それなのに俺は覚えていた嬉しさからついあんなことを口走ってしまった。

あんなことを言わなければ、目の前で母さんがこんなに苦しむことはなかったのに。

最後の最後まで自分の情けなさに腹が立つ。


「どうして……っ?私には何が起こったの……!?」

「母さん、落ち着いて。大丈夫」

「ねぇ!!私はどうしちゃったの……!?」


母さんは右手で俺の服を掴んで、大きく揺さぶる。