「あ、あの……!私……外に忘れ物したんで取りに行ってきます……!」
隣にいたハルが気を遣ってくれたのか声を震わせながら病室から飛び出した。
残されたのは二人だけ。
長い沈黙が生まれる。まるで、一秒が十分のように長く感じられた。
だけど、そんな長い沈黙を破ったのは母さんの方だった。
「辛い思いしかしてないはずなのに……快人は私に笑ってくれるの……『母さん、俺は母さんの息子でよかったよ』って……っ」
もう、限界だった。
堰を切ったように透明な雫が頬を伝い、幾度となく冷たい床にこぼれ落ちる。
母さん……俺は今でもそう思っているよ。
母さんが俺を大切に育ててくれたからそう思うんだ。
「あの子は優しい子なの……っ。でも本当は誰より弱いのにそれを隠して笑うの……っ」
次々に出てくる俺に対する想いに、胸がぎゅっと締めつけられ、爪が食い込むほど拳にも力が入る。
どうして、俺はまだ子供なんだろう。
もう少し、せめてあともう少し大人だったら母さんを施設に入れなくて済んだのに。
俺がアルバイトでもできる身体だったにならこんなことにはならなかったのに。
そうしたら、いつでも俺がそばにいてあげられたのに。