それがどんなに辛かったことか私には想像もできない。

昨日まで自分のことを知っていた人に『あなたは誰?』そう言われることにどれだけ胸を痛めたのだろう。
自分だけが覚えている思い出の数々を思い出すたび、見るたびに切なくなったはずだ。

だけど、彼は弱音を吐かずにいつものように笑ってそばにいることを選んだ。
とても強い。誰よりも強く優しい人だ。


「俺の母さんさ……疲労でマンションの階段から落ちて……その衝撃で記憶を失くしたんだ……」

「……」


泣き止んできて、落ち着いてきたのか今にも消え入りそうな声でぽつりぽつりと話し出した。


「俺が中3の時に……。それからずっと俺と母さんは他人として過ごしてる。おまけに階段から落ちたときに頭も打って左半身に麻痺が残って日常生活をするのがやっとって感じなんだ」


三年近く……カイくんはお母さんと他人として過ごしているということになる。

彼の気持ちを考えるだけで、心臓が鷲掴みされたように痛む。

何も言えず、相槌を打つので精一杯の私。
そんな私に対してカイくんが話を続ける。