きっと、“母さん”と呼びたいはずだ。
でも言ってしまえば彼女は、思い出さなきゃいけないと感じ、その度に思い出せない自分に絶望し、苦しむだろう。
それが分かっているから……カイくんは一人ですべての苦しみを抱えて生きているのだ。
「またね、カイトくん」
そう言って、彼そっくりな笑顔を浮かべて、カイくんのお母さんは私たちに優しく手を振る。
「……じゃあな」
カイくんは切迫した口調でそれだけ言うと、颯爽と出ていってしまった。
きっと、別れが受け入れられないのだと思う。
その気持ちは私にも痛いほどわかる。
突然の別れなんて、信じられないし、信じたくないものだ。
「失礼します……!」
私もカイくんのあとを追うように病室から出た。
そして、ゆっくりとおぼつかない足取りで歩くカイくんの後ろ姿を見つけて、走ってはいけないとわかっていたけれど、居ても立っても居られなくなって走り出す。
「カイくん……!」
「……ハル」
私を見つめるその瞳は深い悲しみで染まっており、今にも透明な雫がこぼれ落ちそうだ。
悲しいよね……辛いよね……。