お母さんのことを寂し気に見つめてから、無理やり口角を上げ、笑顔のようなものを作り、「悠未さん、調子どう?」と声をかけた。
ああ、自分が息子だということも彼は黙っているのだ、と私はそこで察した。
複雑な気持ちを抱えたまま、彼の後ろをそろそろとついていく。
「あら、カイトくん。今日も来てくれたの?学校は大丈夫?」
カイくんの声に反応し、弾けたように顔を上げると、死んだような瞳に光を宿した。
「大丈夫だよ。今日は休み。この子は俺のクラスメイトの楠川陽音さん」
カイくんに紹介されたので慌てて彼の後ろから、彼の隣まで移動して、「楠川陽音です!」と勢いよく頭を下げた。
二人の会話を聞いて本当に自分の息子のことまで忘れてしまっているのだ、と胸がえぐられるように痛んだ。
カイくんはいつもこうして嘘をついていたのかな?
嘘に嘘を重ねて辛くなかったのだろうか。
いや、辛くないわけがない。
だけど、たとえどれだけ辛かったとしても少しでもお母さんのそばにいたかったんだ。
「可愛い子ね。陽音ちゃんかぁ」
ふんわりと笑った顔がカイくんと瓜二つでとても似ている。
カイくんはお母さん似なのかな。