渉くんの言葉を無視して、再び瓦礫を持ち上げようとするけれど、室さんは動きを止めて、数秒間黙って俯くと、瓦礫からそっと手を離した。
『……渉』
そう、一言……彼の名前を呼んだ。
『室さん……!?早く助けましょう!』
私がそう言った瞬間、室さんは何も言わず、私の腕をがしっと掴むと、ゆっくりと立ち上がった。
な、なんで……?
もしかして、渉くんの言う通りにするの?
どうして?
仲間が、大切な後輩がこんな状態なのに……。
『陽音ちゃん……行こう』
『なっ……何言ってるんです、か』
言っていることの意味が理解出来ず、言葉に詰まる。
嫌だ、ここから離れたくない。
私はずっと渉くんのそばにいるんだ。
『室さん……あり、がとう、ござい……ます』
発する声は苦しそうなのに、心から安堵したような微笑みを浮かべた彼。
『渉……絶対に死ぬなよ』
何を言っているの……?
このままだと渉くんは死んじゃうんだよ!?
今すぐ助けなきゃいけないんだ……っ!
『やだ……っ、やだ……っ!私は行かないよ!』
室さんに掴まれていた勢いよく腕を振り払って、私は放り出されている彼の手をぎゅっと握った。