弱々しかった声とは打って変わり、力強く名前を呼ばれ、思わず手を止めた。
すっ、と彼の方に視線を向けると彼は真剣な表情で私を見つめていた。
『……行け』
その言葉に私は下唇をぎゅっと噛み締めながら乱暴に首を左右に振る。
整った綺麗な顔にはたくさんの傷ができてしまっており、見ているだけでも痛々しい。
そうさせてしまったのは、全部、私のせいだ。
『渉くんと一緒に……っ』
じんじん、と傷口が痛んでもう手に力が入らない。
それでも私は彼を助けるために瓦礫を持ち上げようとすることをやめなかった。
だって、好きだから。
私の人生には君がいないと意味がないんだよ。
ずっと、そばにいたい。
最初に好きになったのは他の誰でもない、君だった。
私の初恋。たとえこの恋が叶わなくてもいい。
それでもいいから好きでいさせてほしい。
『誰か……っ、助けて……!彼を助けて……!ゴホゴホ……っ!』
少し先でもくもくと立ち上がっている煙。風に乗って流れてきた煙を吸いながらも声が枯れるほど必死に助けを呼ぶ。
すると、私の声が届いたのか慌てた様子で消防士の人が駆けつけてくれた。
それは、渉くんと仲のよかった室さんだった。