「拓馬!遅刻だよ!起きなさい!」
お母さんの声で目が覚めた。
時計を見るとすでに8時を回っていた。(拓馬くんの学校は7時50分には着席してないといけない)
拓馬くんはリビングへ駆け降りていくと朝ごはんも食べずに歯磨きだけして出かけた。
学校に着くともう1時間目が始まっていて拓馬くんは教室の後ろから静かに入ろうとした。
「薩長同盟など幕末に活躍した坂本龍馬はどこで生まれたか、じゃあ佐倉拓馬くん答えてください」
やっぱり。先生には全部見えてるんだ。
「えっとーわかんないです!」
しゃがんでいた拓馬くんは勢いよく背筋を伸ばし返事をした。
「はい、でしょうね。今来た?次からは遅刻しないようにね」
クラスのみんなが笑い拓馬くんもいたずらっ子のように笑う。
先生も注意してる割にニコニコ微笑んでいる。
「拓馬ー!それパジャマじゃね?」
「本当だー!」
拓馬くんの洋服を見ると拓馬くんのお気に入りのパジャマだった。
「やっべ!急いで来たから着替えてくるの忘れちった」
あちゃーっと頭を掻く拓馬くん。
これは恥ずかしいだろうな〜。
「それで今日ずっとパジャマで学校にいたんだ」
拓馬くんの目の前には恥ずかしそうに頭を抱えるお母さんと呆れたように笑うお父さんがいた。
今日は夜遅くて沙耶ちゃんはもう寝ている。
「朝起こした瞬間歯磨きだけして外出たんだからびっくりしたわよ」
「ハッハッハッ!拓馬、面白いな」
「でしょ?でも俺すっごく恥ずかしかったんだよ」
でしょうね。拓馬くんらしいけど。
「あと、いつもはクラスのみんなが休んでるのに今日はほぼ全員来てた」
「あーもう受験も終わったのか。拓馬ももう少しで中学生だな」
早いな。前はあんなに小さかったのに今はもうこんなに大きい。立派に成長してくれてよかった。
「そうね、早いわね。そういえばあれはどうする?」
お母さんの指は僕を指していた。
「そうだな。んーじゃあ寄付しようか」
「寄付?何それ?」
拓馬くん、6年生にもなってわからないとは。勉強はやっぱり大切だ。
塾に行かせることに賛成。
「簡単に言えばあげる、ってことだ。お父さん達にはもう必要のないものを必要な人に無料で渡すんだ」
「いいね!それ。僕があげたもので喜んでくれる人がいるってことでしょ?」
「そうね、寄付にしましょうか。捨てるのもなんか気が引けるし」
その日、僕はいつもの場所で考えた。
初めてこの家に来た時。
お母さんは僕を拭いてくれた。
お父さんは僕を優しい目で見つめてくれた。
拓馬くんは僕をかっこいいって褒めてくれた。
沙耶ちゃんは僕を撫でてくれた。
たくさん乱暴されたし重いもの持たされたけど楽しかったな。この6年間。
僕はみんなにかっこいいって言われるたびに真っ黒な自分の顔が赤く染まってくような気がしていたんだ。
時間が経つにつれ、ボロボロになってみすぼらしくなったけど僕は自慢だったよ。
自分が拓馬くんの"ランドセル"ってことが。
拓馬くんが卒業するまで、拓馬くんが僕を必要としなくなるまで。
僕は拓馬くんと一緒に学校へ行こう。
前を、向こう。
でもやっぱ寂しいな。拓馬くんと離れたくない。
その時、僕は流れるはずのない涙を流した。
お母さんの声で目が覚めた。
時計を見るとすでに8時を回っていた。(拓馬くんの学校は7時50分には着席してないといけない)
拓馬くんはリビングへ駆け降りていくと朝ごはんも食べずに歯磨きだけして出かけた。
学校に着くともう1時間目が始まっていて拓馬くんは教室の後ろから静かに入ろうとした。
「薩長同盟など幕末に活躍した坂本龍馬はどこで生まれたか、じゃあ佐倉拓馬くん答えてください」
やっぱり。先生には全部見えてるんだ。
「えっとーわかんないです!」
しゃがんでいた拓馬くんは勢いよく背筋を伸ばし返事をした。
「はい、でしょうね。今来た?次からは遅刻しないようにね」
クラスのみんなが笑い拓馬くんもいたずらっ子のように笑う。
先生も注意してる割にニコニコ微笑んでいる。
「拓馬ー!それパジャマじゃね?」
「本当だー!」
拓馬くんの洋服を見ると拓馬くんのお気に入りのパジャマだった。
「やっべ!急いで来たから着替えてくるの忘れちった」
あちゃーっと頭を掻く拓馬くん。
これは恥ずかしいだろうな〜。
「それで今日ずっとパジャマで学校にいたんだ」
拓馬くんの目の前には恥ずかしそうに頭を抱えるお母さんと呆れたように笑うお父さんがいた。
今日は夜遅くて沙耶ちゃんはもう寝ている。
「朝起こした瞬間歯磨きだけして外出たんだからびっくりしたわよ」
「ハッハッハッ!拓馬、面白いな」
「でしょ?でも俺すっごく恥ずかしかったんだよ」
でしょうね。拓馬くんらしいけど。
「あと、いつもはクラスのみんなが休んでるのに今日はほぼ全員来てた」
「あーもう受験も終わったのか。拓馬ももう少しで中学生だな」
早いな。前はあんなに小さかったのに今はもうこんなに大きい。立派に成長してくれてよかった。
「そうね、早いわね。そういえばあれはどうする?」
お母さんの指は僕を指していた。
「そうだな。んーじゃあ寄付しようか」
「寄付?何それ?」
拓馬くん、6年生にもなってわからないとは。勉強はやっぱり大切だ。
塾に行かせることに賛成。
「簡単に言えばあげる、ってことだ。お父さん達にはもう必要のないものを必要な人に無料で渡すんだ」
「いいね!それ。僕があげたもので喜んでくれる人がいるってことでしょ?」
「そうね、寄付にしましょうか。捨てるのもなんか気が引けるし」
その日、僕はいつもの場所で考えた。
初めてこの家に来た時。
お母さんは僕を拭いてくれた。
お父さんは僕を優しい目で見つめてくれた。
拓馬くんは僕をかっこいいって褒めてくれた。
沙耶ちゃんは僕を撫でてくれた。
たくさん乱暴されたし重いもの持たされたけど楽しかったな。この6年間。
僕はみんなにかっこいいって言われるたびに真っ黒な自分の顔が赤く染まってくような気がしていたんだ。
時間が経つにつれ、ボロボロになってみすぼらしくなったけど僕は自慢だったよ。
自分が拓馬くんの"ランドセル"ってことが。
拓馬くんが卒業するまで、拓馬くんが僕を必要としなくなるまで。
僕は拓馬くんと一緒に学校へ行こう。
前を、向こう。
でもやっぱ寂しいな。拓馬くんと離れたくない。
その時、僕は流れるはずのない涙を流した。