玲香は試着室から煌びやかなドレスを着て出てきた。


「これどう? 似合う?」


 正直、涼気にはセンスや良さが分からなかったがとりあえずグッドサインを見せる。


「正直ね。全く分かりませんって顔してる」


「バレたか」


「少なからず私にも魔術は使えるということをお忘れなく」


 玲香はピリピリした雰囲気で試着室へと戻っていった。


「女子の心は読み取り不可かもしれないな」


 涼気がため息をついていると匿名でメッセージが届いた。


「なんだこれ?」


『お前の元カノは預かった。助けたければ街の外れにある工場まで来るように』


 涼気は動揺した。
 焦りから頭の中が真っ白になった。


「玲香、どうしよう」


 涼気は玲香の試着室のカーテンを開けた。
 玲香は下着姿のままで固まった。


「ちょっと何してるのよ」


「あ、ごめん。その急ぎの相談が……」


 話終わらない内に涼気の頬は玲香の平手打ちを食らった。










「それで華音が人質になってるの?」


「そうらしいんだ……」


「でもさ、普通新しい彼氏の方に連絡が行きそうじゃない?」


「たしかに。何で俺だったんだろう」


 玲香と涼気は理解ができないまま、とりあえず言われた場所まで向かった。


 工場に着くと人の気配が全く感じられなかった。


「誰もいなさそうだけど」


 玲香が辺りを見渡すが何も見つからない。
 だが涼気の耳にはしっかりと足音が聞こえる。
 きっと阿母の能力のお陰なのだろう。


「人はいるから俺から離れるなよ!」


「分かったわ」


 二人が工場の中心まで来た瞬間、電気ショックが流れた。


「キャーー! いたーい!」


「ビリビリするっ!」


 電気を浴びる二人の前に現れたのは会長と夕だった。


「お前たちは誰だ?」


「私達はただの魔術師さ」


「何で俺に構うんだ!」


 会長は大きな声を出して笑い始めた。


「正しくは君にではなく、君の能力に用があるんだよ」


「能力?」


「そう。浮気をされた悲しみと恨みで開花した君の能力を我々は捕食したいのだよ」


「俺の能力ってそんなにすごいのか?」


「ああ。さっきマンションの前で君を人目見た時に確信した」


「だからわざと注文して俺をおびき寄せたのか……」


だんだんと電気ショックは強くなっていく。
立っているだけでも倒れ込みそうなほどのパワーである。


「涼気、私もうダメかも……」


玲香が膝から崩れ落ちる。


「玲香、しっかりしろ!」


玲香がその場に倒れ込んでしまった。


「おい、どうしたらいいんだ? 俺のことは何をしても構わないから玲香のことは助けてくれ!」


涼気は会長に叫んだ。


「懸命な判断だよ。夕、電気ショックを止めてあげなさい」


「はい」


電気ショックが止まる。


「玲香……!」


涼気は玲香の元に駆け寄るが意識がない。


「俺の大切な人をよくも……」


怒る涼気を見て会長と夕はヒソヒソと笑っている。


「さぁ、そろそろ君の能力を差し出してもらおうか。夕、押さえなさい」


夕が涼気の腕を掴み押さえる。


「大人しくしててくれよ」


会長が涼気のつむじに手を当てて気を吸い取ろうとする。


すると涼気の中の阿母が地面からとめどもなく大きな邪念を放ち始めた。


「こ、これは一体……」