「あんた、本当はすごい力を持ってるのね。だからお爺さんも力を使うなって言ったんだわ」


「お、俺にそんな力があるんですか?」


「ええ。あんたが本気出したらこの街は一瞬で砕け散るわ。使い方を間違えれば一気に多くの人を苦しめる悪人にもなり得るってことね」


「えぇー? 涼気にそんな力があったんですね! ってかアイス……」


 阿母はいつの間にか玲香の食べれなかったメロンのアイスを食べている。


「それであんたはどうしたいの? 悪人にでもなって復讐する? それともこのまま善良な弱っちい自分を演じる?」


「俺はやっぱり爺ちゃんの言葉を守りたいです。でも華音には復讐したい気持ちもあります……」


 涼気が復讐に踏み切れない間に玲香はとっておきのアイディアを思いついた。


「阿母さんが涼気に憑依すれば良いんじゃないでしょうか?」


「憑依?!」


 涼気は顔を引き攣らせているのに対して、阿母はまんざらでもなさそうだった。


「まぁ、それも良いわね。私が勝手にやったことにすればあんたはお爺さんとの約束も破ったことにはならないし。私のストレスも解消できるし」


「いや、それでも憑依は……」


 阿母には涼気の声はもはや聞こえなくなっている。


「期間は一週間でどうでしょうか?」


「良いわ。詳しくは憑依してから決めるわ」


 阿母は勢いよく涼気に向かって体当たりした。


「うぉおおおおおおっ!」


 涼気はその場に倒れた。




 プルルルルッ、プルルルルッ。
 電話の着信音が部屋に鳴り響く。


「もしもし。会長、準備はできました。今からそちらへ向かいます」


 男は電話を切ると部屋を後にした。


 マンションの駐車場から車に乗って外へ出る。
 エントランスの前を通るとキンパピヴィラの文字が見えた。


 男は運転しながら一本の電話をかけた。


「もしもし、華音? 急で申し訳ないんだけど華音の家に行っても良いかな?」


 男はそのまま華音の方向へと車を走らせて行った。