玲香は涼気のほうきの音が聞こえた為、店の外まで出迎えに行った。


「おかえり。アイスちゃんと買ってきてくれた?」


「……うん。はい、これ」


 涼気は玲香に袋を渡すと、そのまま店の奥へと入っていった。


「どうしたのかしら?」


 玲香は涼気の元気の無さを心配しながらも、とりあえずアイスを食べようと袋の中身を覗く。


 すると入っていたのはお願いしたみかんのアイスではなく、メロンのアイスだった。


「私メロンアレルギーだってこと知ってるはずなのに、わざわざ買ってくるなんて余程さっきからかったこと根に持ってるのね」


 玲香はアイスの復讐をしようと涼気の後を追っていった。


「ねぇ、ちょっとこれは流石に酷いんじゃないの?」


 玲香が怒りながら店の奥へと入ると、涼気がうずくまって泣いていた。


「ちょっと、どうしたのよ? 私が強く言い過ぎたかな、ごめん……」


 玲香は涼気に駆け寄り、ギュッと抱きしめて慰めた。


「俺、さっき華音のこと見たんだ……。そしたら他の男とキスしてた……」


「え? 何それ、どういうことなのか説明してよ」


「俺が貧乏な商人で恋愛経験が無かったからって同情して付き合ってたんだって」


「何その最低な言い訳。ってかどうしてそんなこと分かったの?」


「注文者が華音の浮気相手だったから、マンションに着いた時にちょうど見えたというか聞こえたというか……」


 玲香は華音の話を聞いて怒りがピークに達した。
 玲香の怒りの波動が店の中を包み込み始めた。


「涼気、いつまで善人でいるつもりなの? あなたがお人好しだからこうやって裏切られるのよ!」


「でも爺ちゃんが人々の為に善良に生きなさいって言ってたし。極力魔術の力を使わずに平凡に生きて欲しいって亡くなる前に言われたんだ……」


 玲香は煮え切らない涼気を見て、死者を呼び出す魔術を使い始めた。


「私が涼気のお爺ちゃんを今から呼び出すから、話し合ってみなさい」


「玲香、落ち着いて。怒りの波動で魔術を使うと失敗することが……」


 涼気が玲香をなだめようとしたが時すでに遅しであった。


「ふぅ、呼び出したから話し合って……って違う人呼んじゃったみたい!」


 玲香と涼気の目の前に現れたのは、魔術界を騒がせた極悪非道な魔術者・誤水阿母(ごすいあんま)だった。


「あ、あなたは……」


「誰よ、私のことを呼び出したのは」


「すいませんっ! 人違いで召喚してしましました。すぐに戻しますので……」


 玲香は早く阿母を元の場所に返そうとするが、魔術の効力が切れてしまいどうすることもできなくなってしまった。


「ねぇ、あんた。私これから見たい番組あるから早く帰りたいんだけど」


「もう一度、やってみますので少々お待ち下さい!」


 玲香は涼気にアイコンタクトをしてどうにか阿母を送り返すように訴える。
 涼気も力を振り絞って魔術をかけるが、阿母はびくともしない。


「無理みたいです……」


 阿母はギロッと涼気と玲香を睨んだ。


「あんた達、どうしてくれる訳? 勝手に呼び出すわ、元には戻せないわって。私に喧嘩でも売ってるの?」


 阿母は店の中に思いっきり邪念を振りまいた。


「す、すいません! 友達のお爺ちゃんを呼び出すつもりが怒った勢いで魔術を使ったせいで失敗したみたいで……」


 阿母は涼気の目の前に来て、目をじっと見つめた。


「へぇ〜、浮気されてたのね。それで悪人になろうとしたけど決断をもたもたした彼のせいで、あなたは誤って私を召喚したってことね」


 玲香は大きく首を縦に振った。


「まさしくその通りでございます!」


 次の瞬間、阿母は涼気のつむじに手を当てた。