初めて長時間通話をした日から、僕らは毎日のように時間が合えば通話をしあった。

 彼女には悠斗がいることはもちろん分かってはいたが、彼女は比較的誰とでも電話をしたり、異性との距離感がかなり近い性格なので、特に気にしてもいなかった。

 僕も大多数の中の1人に過ぎない。その程度の認識だった。

 今日も部活を終え、帰宅したのは19時を軽く過ぎたくらい。自室に戻り、制服を脱いでクローゼットの中のハンガーに制服をかける。

 中学生の時はめんどくさくて脱いだ制服は床に放置していたが、高校生になってからは意外にもちゃんとするようになった。

 理由としては、制服が皺々になって見栄えがかなり悪くなるから。中学生の頃は、どうでもよかったことが高校生になると途端に意識しだす。

 見た目だけでなく、心もこうして大人になっていくのだろう。

 家族と夕食を済ませ、湯船に肩まで浸かる。溜まっていた疲れが、溶けていくような心地のいい安らぎ。

『ねぇ、今日も電話していい?』

『うん。いいよ』

 途切れることのないやりとり。学校にいる時以外は基本的に彼女とラインを使って話すことが、日常の一部となってしまっていた。

 最近では、何のために電話をしていたのか、僕の記憶から抜け落ちてしまっていた。

 湯船に口をつけ、中で口から息を吐き出す。水面の気泡が、浮かんでは割れてしまう。

 彼女は今、何をしているのだろう。不意にそんなことを思ってしまった。

「あぁやばい。のぼせそう」

 ラインに夢中になっていたせいか、普段よりも入浴時間が伸びてしまった。おかげで、両手の指先は白く皺々な指へと変化してしまっていた。まるで、おじいちゃん。いや、おじいちゃんよりも皺々だ。

 風呂から上がり、髪の毛を雑に乾かす。手で触るとまだ湿っている部分もあるが、めんどくさいので後は自然乾燥に任せるとしよう。

 なぜか、湯船に浸かっている時は感じなかったが、上がった後にくるこの脱力感は何なのだろうか。決して水分不足ではない。どっと疲れが一瞬で体全体にのしかかってくるような感覚。

 自室に入ると、すぐにベッドへとダイブする。フワッとしたお日様の匂いが、眠気を誘ってくる。うとうとしながらも携帯でぼんやりとネットを読み漁る。

『おーい、電話かけるよ』

 数分後にきた彼女からのライン。完全に日課となってしまった電話。

 適当に了解の意味を持つスタンプを送る。あぁ、今日も長いようで、短い夜が始まる。

 ほら、かかってきた。僕と彼女を繋いでくれる夜のひと時が...