朝食を済ませ、家を出る時間まではまだ2時間近く余裕がある。

 大抵の男子高校生なら、こんなに時間があったら寝ていたいと思うのが普通だろう。でも、僕は違う。

 余裕を持って起きて、朝はダラダラと支度をしたい派の人間なのだ。

 他人からすると、無駄なルーティーンにも思われてしまうが、絶対に寝坊をして朝焦るのだけは嫌だ。

 早く起きたところで、家を出る時間はいつもギリギリなのだが...時として時間にルーズなところも不思議な点ではある。

 部活の朝練がある日などは、朝の4時に目覚めるようにしている。結局家を出るのは、6時過ぎなのにもかかわらず。

 朝食を取った後は、必ずリビングに置かれたソファーの上で、携帯を眺めるのが僕の日課。

 ネットニュースやYouTubeを見て、穏やかな時間を過ごす。

 今日も普段通り朝のひと時を過ごそうと思ったが、一通の通知が僕の携帯の画面を光らせた。

 送り主は彼女だった。ようやく起きて来たらしい。と言っても、現在の時刻は6時半なので、彼女も割と早起きの部類に入るだろう。

 画面に表示された通知に触れ、ラインの画面へと強制的に飛ばされる。

『おはよー。結局寝落ち通話しちゃったね。てか、何で起こしてくれなかったの?」

 何でって彼女は起こして欲しかったのだろうか。起こしたら起こしたで、何か言われそうだったから起こさなかったのに...まさかの逆効果だったみたいだ。

『ごめんって。あまり昨日話した内容覚えてないんだよね』

『あ、それはうちも。途中からの記憶がほとんど抜けてるや』

『まじか。電話した意味。それに、相談なんて最初の数分だけだったし』

『それな。ずっと違うこと話してた』

 その後も学校に行く準備をしながらもラインで会話を続けた。途切れることなくぽんぽんと。

 この時から既に僕は彼女を意識していたのだろうか。いや、それはないな。まだ彼女に恋をするなんて思ってすらいなかった。

 僕らの関係が急速に縮まっていったのは、確かあの日の電話だった気がする。今でも忘れられない。彼女が僕に囁いた言葉を。
 
 睡魔さえも吹き飛ばしてしまうほどの衝撃を与えてくれた一瞬を僕は、今まで何度思い返したことか。