彼女とキスをした日から、僕らの関係性はまた歪なものになってしまっていた。近づいては離れ、離れては近づき。そんなことを繰り返しているうちに、雪は溶け春の兆しが目に見えて感じられる季節になっていた。
3月の頭で桜はまだ咲いてはいないが、僕らの胸には桜のコサージュが華やかに咲いている。
3月1日。全国の高校3年生が3年間育った学校を巣立つ日。僕らは今日、3年間過ごした学び舎を卒業する。
3年前、僕らは入学した。気付けば僕らは3年生になり、卒業という晴れ舞台に立っている。ついこの前、入学式をしたばかりのように感じられるのはなぜだろう。
部活、勉強、友情、恋。どれをとっても青春。何気なく過ごしていた学校生活でさえ、卒業する今となると青春だったのだと身に染みてわかる。
決められた制服に身を包み、友達と笑い合うことでさえ、この先の人生では当たり前ではなくなってしまう。
高校生の間は、日々の授業や登校がめんどくさかったのに、今ではあの時間に戻りたいと思う自分がいる。
それくらい高校生活は楽しく、輝いていたものだったんだ。人は失ってから気付くというが、それは本当かもしれない。
失われた時間は決して戻ることはない。日々思い出として、美化されながらも少しずつ風化していく。
卒業式を無事に終え、僕らはクラスで最後のホームルームを迎えようとしていた。
式の最中に泣いている人はいなかったが、教室に戻ってきた途端目に涙を溜める者の数が増えた気がする。
「原くん!」
「彩音・・・」
「うちらもうすぐで卒業しちゃうね」
「だね。寂しいよ。これから会うことができなくなる人もいるって考えるとやっぱり寂しいや」
「うちらはまた会えるかな」
「席につけ〜! 最後のホームルーム始めるぞ!」
長井先生の声に皆が自分の席へと座り、教卓を一心に見つめる。この教室で過ごす最後の時間。
「みんな、卒業おめでとう!みんなと過ごした時間は先生にとって宝物です。一生忘れない。これだけは覚えていてほしいことがあります。この中には、これから先の人生でもう2度と会わなくなる人もいると思います。当然、人は次のステージへと上がり、そのステージで新たな人間関係を築き生きていく。それは、僕らが生きている限り変わることがない事実。だけど、ここで過ごした仲間たちのことは忘れないでほしい。高校生は、子供だった君らを大人の階段へと登らせるための過程。その過程を共に学び、育った仲間たちはいつか、かけがえのない存在だったと気付く時が来る。だから、その日まで忘れないで。そして、今度会う時は成長した姿を見せてください。みんな、3年間ありがとう!」
どうしてだろうか。普段だったら、聞いて終わりなはずの話が、今はすんなりと自分の体の一部として染み込んでくるみたいだ。
きっと、僕は先生のこの言葉を忘れることはないだろう。そうだ。僕らは、入学した頃は将来の姿なんて全く想像していなかった。それなのに、今では理想の姿、進路を自分の意思で決め、進んできたんだ。
僕らは気が付けば、大人になっていた。言われた通りするのではなく、自分が望んだ道の上を歩けるように成長していたんだ。
周りにはおびただしい数の保護者たち。誰が誰の親などわかるはずもない。いずれ自分にも訪れるのであろうか。自分の息子、娘が高校を卒業する日が。
来て欲しいようで、来て欲しくない気持ちが交差する。空いた窓の隙間から教室へと流れ込んでくる春風が、前方に座っていた彼女の髪の毛を揺らす。
僕はその揺れる髪の毛を眺めながら、1年間を振り返る。彼女を好きになって、恋に溺れてしまった1年間を。
3月の頭で桜はまだ咲いてはいないが、僕らの胸には桜のコサージュが華やかに咲いている。
3月1日。全国の高校3年生が3年間育った学校を巣立つ日。僕らは今日、3年間過ごした学び舎を卒業する。
3年前、僕らは入学した。気付けば僕らは3年生になり、卒業という晴れ舞台に立っている。ついこの前、入学式をしたばかりのように感じられるのはなぜだろう。
部活、勉強、友情、恋。どれをとっても青春。何気なく過ごしていた学校生活でさえ、卒業する今となると青春だったのだと身に染みてわかる。
決められた制服に身を包み、友達と笑い合うことでさえ、この先の人生では当たり前ではなくなってしまう。
高校生の間は、日々の授業や登校がめんどくさかったのに、今ではあの時間に戻りたいと思う自分がいる。
それくらい高校生活は楽しく、輝いていたものだったんだ。人は失ってから気付くというが、それは本当かもしれない。
失われた時間は決して戻ることはない。日々思い出として、美化されながらも少しずつ風化していく。
卒業式を無事に終え、僕らはクラスで最後のホームルームを迎えようとしていた。
式の最中に泣いている人はいなかったが、教室に戻ってきた途端目に涙を溜める者の数が増えた気がする。
「原くん!」
「彩音・・・」
「うちらもうすぐで卒業しちゃうね」
「だね。寂しいよ。これから会うことができなくなる人もいるって考えるとやっぱり寂しいや」
「うちらはまた会えるかな」
「席につけ〜! 最後のホームルーム始めるぞ!」
長井先生の声に皆が自分の席へと座り、教卓を一心に見つめる。この教室で過ごす最後の時間。
「みんな、卒業おめでとう!みんなと過ごした時間は先生にとって宝物です。一生忘れない。これだけは覚えていてほしいことがあります。この中には、これから先の人生でもう2度と会わなくなる人もいると思います。当然、人は次のステージへと上がり、そのステージで新たな人間関係を築き生きていく。それは、僕らが生きている限り変わることがない事実。だけど、ここで過ごした仲間たちのことは忘れないでほしい。高校生は、子供だった君らを大人の階段へと登らせるための過程。その過程を共に学び、育った仲間たちはいつか、かけがえのない存在だったと気付く時が来る。だから、その日まで忘れないで。そして、今度会う時は成長した姿を見せてください。みんな、3年間ありがとう!」
どうしてだろうか。普段だったら、聞いて終わりなはずの話が、今はすんなりと自分の体の一部として染み込んでくるみたいだ。
きっと、僕は先生のこの言葉を忘れることはないだろう。そうだ。僕らは、入学した頃は将来の姿なんて全く想像していなかった。それなのに、今では理想の姿、進路を自分の意思で決め、進んできたんだ。
僕らは気が付けば、大人になっていた。言われた通りするのではなく、自分が望んだ道の上を歩けるように成長していたんだ。
周りにはおびただしい数の保護者たち。誰が誰の親などわかるはずもない。いずれ自分にも訪れるのであろうか。自分の息子、娘が高校を卒業する日が。
来て欲しいようで、来て欲しくない気持ちが交差する。空いた窓の隙間から教室へと流れ込んでくる春風が、前方に座っていた彼女の髪の毛を揺らす。
僕はその揺れる髪の毛を眺めながら、1年間を振り返る。彼女を好きになって、恋に溺れてしまった1年間を。