コートの中央でクラスメイトに囲まれ、涙を流している彩音と喜びを爆発させている2年生。

 これが勝負。勝負において、年齢は一切関係がない。2年生たちは、次の試合に備えるためすぐにコートを後にしたが、彩音たちは動かない。いや、動けていなかった。

 顔は見えなくとも彼女が泣いているのは、丸まった背中を見ればわかった。チームメイトが、背中を摩り励ましているが、一向に顔を上げる様子がない彼女。

 結局、数分後にみんなに連れられてコートを後にした彼女は、目が赤く充血するほど涙を浮かべていた。

 そんな彼女に何か声をかけてあげれば良かったと僕は今でも後悔している。

 この時、たった一言彼女に声をかけてあげることさえできれば...でも、僕はできなかった。

 体育館の隅の方で、泣いている彼女を横目に僕は体育館を後にすることを選択したんだ。

 周りの目が怖かったんだ。僕の彼女への好意が周りの人間にバレてしまうことが。

 本音を言えば、嫌われてでもいいから小さく震える彼女の体を抱きしめてあげたかった。求められているのが、僕ではなかったとしても、一時の心の許しでもいいから僕が支えてあげれば良かった。

 その後の男子バレーの決勝戦の試合を観戦している時に、彼女が僕に見せてきた甘えすらも僕は流してしまった。バレーの観戦を颯と2人で座って見ていた時だった。

 彩音が静かに僕の後ろに座り、そっと触れているのか触れていないのかわからないくらいの感覚で、僕のクラスTシャツの袖をぎゅっと握っていた。

 今思えば、あれは彼女なりの甘えだったのだろう。当然、僕らの周りにはクラスメイトや大勢の同級生が座っていた。試合に夢中になっているからと言っても、みんなが試合を見ているとは限らない。

 手を握れば良かったのだろうか。それとも、振り返って頭を撫でて「頑張ったね」と言えば良かったのだろうか。僕はどちらもしなかった。

 もし、僕が彩音の彼氏だったら間違いなくどちらか一方をしていただろう。でも、僕は彼女の彼氏でもなんでもない。振られた男なのだ。

 これ以上、彼女に深追いをすることは許されない。世間一般的にも、自分の心的にも。

 それなのに、彼女が僕の側から離れることはなかった。試合が終わりを迎えるまでずっと。