「お疲れ様〜」

「お疲れ〜」

 教室の所々で互いを労う言葉が交わされている。つい先ほど、白熱した戦いが繰り広げられた球技大会が終了した。

 結果として、僕らのクラスは総合優勝はできなかったが、男子バスケは見事に優勝することができた。

 全クラスが決勝を見守る中、僕らはコートの真ん中で喜びを分かち合った。クラス全員で円陣みたい輪になり、優勝したということにみんなが喜んでいた。

 自分が出ていないのにもかかわらず、こうして喜びを分かち合えたのは、いつぶりだっただろうか。きっと部活動の団体戦以来な気がする。

 数ヶ月前に引退してしまった部活動が恋しくなる。

「あの時はありがとうね」

「あ、うん」

 背後から話しかけられて、僕は後ろを振り向く。僕の後ろに立っていたのは、目元がまだ赤みがかっている彩音だった。

「ごめん」

「何が?」

「こんな時ばかり頼っちゃって・・・」

「いいよ」

 こんなことしか言えない僕。最近は、冷たくされていたからだろうか。頼られたことが嬉しかったのかもしれない。

 好きな人が泣いていたら、誰だって人は心配をしてしまうだろう。僕もその1人だった。

 数時間前に行われた女子バスケの試合。僕のクラスは彩音をチームの主軸としたメンバーで球技大会に臨んでいた。

 1回戦は1年生と当たり、危なげなく余裕の様子で勝利。問題は2回戦だった。

 元バスケ経験者が3人ほどいる2年生のチームと当たり、かなり接戦な試合を繰り広げていた。

 彩音も元々バスケ部だったので、未経験者に比べると遥かに動きが軽やか。しかし、それは相手も同じだったようで、試合中ずっと緊迫した雰囲気が漂い続けていた。

 キュッキュッと体育館に響き渡るいくつものシューズと床が擦れる音。時間が経つごとにその音は一層激しさを増していった。

 そして、試合終了。スコアを見ると、点差はなく互いにドロー状態。勝敗を決めるためにフリースローで、より多く決めることができたチームが勝利という条件に変更された。

 互いに引けを取らず、ゴールネットを揺らしたり、リングに弾かれたりとこちらでも実力は拮抗していた。

 決めればサドンデス。外せば、2回戦敗退という場面で順番が回ってきたのは、彩音だった。

 チーム唯一の経験者だったため、期待も大きかっただろう。もちろん、自分にかかっている重圧も認識していたはず。

 ゆっくりとフリースローの立ち位置に立ち、ボールを撫でるように手を添える彼女。

 彼女の緊張具合がこちらまで伝わってくるくらい、肩が上下に大きく揺れる。

 吸って吐いてを繰り返しては、その様子に僕らの緊張度も高まっていく。

 覚悟が決まったのか、足をやわらかく折り曲げ、足と手のバネを使ってボールが手から離れていく。

 弧を描くように、綺麗な放物線でボールがネットへと吸い込まれる軌道。

 "ガコンッ"ボールは赤いリングにぶつかり、地面へと落ちた。何度も床に弾むボール。徐々に小さくなっていくバウンド。

 その傍で、勝利をしたことを喜んでいる2年生。惜しかった。あと一歩勝利には届かなかった。

 ドラマのように膝から崩れ落ちる彼女を僕は、眺めていることしかできなかった。