無事文化祭はなんのトラブルもなく、終わりを迎えた。高校3年生のイベントが終わってしまった。

 教室に戻ったみんなの表情は、まだ文化祭の熱が冷めていないのか活気に満ちていた。

「みんな2日間お疲れ様。昨日のダンスと言い、今日の模擬店と言い満点だよ。楽しめたかい?最後の文化祭は」

 教壇に立つ担任の長井先生の一言に、皆の視線が先生へと向けられる。

「楽しかった〜!!!」

 重なり合う声が、教室の中を木霊する。本当に楽しかった。終わらないで欲しかった。これが、思い出に切り替わってしまうのが寂しい反面、次の球技大会に向けてまた気合を入れ直さなければならない。

「片付けをする前に、少し休憩だな。もし、何かあったら先生職員室にいるから呼んでくれ」

「はーい!」

 再び意図したわけでもなく重なる声。

 周囲を見渡すと、文化祭の余韻に浸りたいのかすぐさま集まって写真を撮り始める女子たち。

 その一方で男子はグループごとに集まって話している。対照的な絵面。

 思い出を形として残したい女子たちと、思い出は記憶として残しておきたい男子。当然、僕も後者だ。

 1枚くらいならいいが、女子みたいに何枚も撮り続けるのは僕には難しい。まず、写真を撮ることが嫌いだから。

 ある程度女子だけで写真を撮り終えたのだろうか。徐々に男子にも声をかけ始め、撮り始める女子たち。

「写真撮ろ!」

 グイッと腕を引かれ、重心が偏ってしまう。その弾みで彼女との距離が一気に縮まる。

 他のクラスに遊びに行ったのか、教室内にはほとんど人は残っていなかった。悠斗の姿もない。

「いいよ。せっかくだから、(あい)(はやて)も呼んで一緒に撮ろ」

「いいね!」

 山内愛(やまうちあい)小川颯(おがわはやて)とは2年生の頃同じクラスになって以来、仲良くしている友達。2年生の頃はよくこの4人で帰ったり、テスト前は居残りして勉強をしていた。

 僕と彩音と颯は3年生でも同じクラスだったが、愛だけはクラスが離れてしまった。

「呼んできたよ〜!」

「お、ありがと。なんか愛、久しぶりだ。相変わらず、背高いな」

「うっさいわ。もっと小さくて可愛い女の子になりたかった。あれ、小川は? あいつどこいったの?」

「さっきラインしたから、そろそろ来ると思うけど」

「遅れた〜。お、愛じゃん。相変わらず、デカイな」

「うるせ! 今さっき、健大に言われたばかりだっての!」

 頭を叩かれている颯と楽しそうに笑う愛。やっぱり僕はこの4人でいるのが好きだ。クラスが離れてしまったのは悲しいが、卒業まで...いや大人になっても僕らの仲が続いていけばいいな。

 いつか4人で再会してお酒を飲むことができる日が来てくれることを願って。

「ほら、早く写真撮るよ! 男子は後ろね!」

「えー、そしたら俺、愛より小さいから隠れちゃうじゃん」

「は。小川また殴られたいの?」

「本当仲良いね、2人とも」

「仲良くないわ!!!」

 2人がすごい形相で僕のことを睨みつけてくる。僕からすると、2人はお似合いだと思うのだけれど、違うのだろうか。

「はい、チーズ!」

「えっ!」

「ごめんね、撮っちゃった!」

 各々が勝手な行動を取る僕ら。それが、僕らの仲良い関係性の一つなのかもしれない。

「グループに送っておくね。それにしても、みんなの顔変なの」

 "ピコン"4人のグループに送られてきた一枚の写真。4人様々な表情をしていて面白い。彩音はバッチリと決めていて、愛と颯は互いに歪み合い、僕は2人の様子を微笑ましく眺めている。

 かなり歪な写真だが、思い出としては十分すぎるくらいだ。

 ”ピコン"

「ん?」

 送り主は彩音だった。今、隣にいるのに何を送ってくる必要があるのだろうか。送られてきたメッセージを開く。

『手握ってくれてありがとう。かなり落ち着きました』

 不覚にもドキッとしてしまった。言葉にされるとかなり恥ずかしくなってしまう。

『よかったよ』

 返信をしてから、彼女の顔を見る。彼女も僕の視線に気付いたのか、目を細めて笑う。

 僕の瞳には彼女だけが写り込む。まるで、僕の世界には彼女しかいないかのように。

 いや、むしろそうなのかもしれない。人は恋をすると、その人しか眼中にないんだ。他には誰も視界には映らない。

 僕もそのうちの1人だった。どれだけ彼女を想っていても、決して僕らが結ばれることはなかったのに...

 こうして僕の夏は終わりを迎え、冷え切る寒さと共に彼女の僕に対する気持ちも冷たくなっていった。