俺は、ある一帯をジッと見つめていた。そのどこかに居るであろう奴の姿を探す為に。
 だが、一向に俺の目は奴を捉えない。
 俺はチッと大きく舌を打った。
「・・遅かったか」
 俺が憮然と呟くと、横にいる天影が「これは雲行きが怪しくなってきたね」と同じ声音で言う。
「どうする?いばな」
「どうもこうも、殺す一択だ。いつまでも千代の周りをうろちょろとさせる訳にはいかねぇだろう」
 顔色を窺う様に尋ねる天影に向かって唾棄する。
 天影は俺の言葉を聞くと、「そうだね」と朗らかに首肯するが。その声音は凍てつき、鬼らしい邪気が込められていた。
「此度こそは、と言う感じかな」
「あぁ、此度こそは確実に仕留めてやる」
 俺は力強く首肯してから、天影を見据える。
「天影。お前にも思う所はあるだろうし、反対したい心もあるだろうが」
「まさか、そんな事は思っていないよ」
 まごつく言葉を遮ると、天影はフッと顔を柔らかく綻ばせた。
「私はいつも通り、君の擁護に徹する。それが私のやるべき事さ」
 俺は呆気に取られながらも「本心か?」と確認を取る。
 滅多に本心を見せない奴だから、こう尋ねても本心を明かさないと分かっているが。今は天影の本心に少しでも触れねばならない。
 此度の事は、俺だけの問題ではないのだから。
 俺は細められた瞳をまっすぐ見据えた。
 すると天影は「本心だよ」と、まっすぐ射抜き返しながら答える。
「その心がない訳ではないよ、勿論ね。けれど、この件に関しては君がやるべきだと私は思う。もし、私の番が回ってくるとすれば・・それは君に何か起きた時か、私がそうせざるを得ない時だよ。まぁ、そんな時は万が一と言う感じだろうけれどね」
 フフと微笑みながら言葉を紡ぐと、「だから、いばな」と真剣な面持ちで告げた。
「君がこの因縁を断ち切って欲しい」
 あまり見せる事もなく、少ししか見る事が出来ないはずの天影の本心。
 俺は「あぁ」と強く頷いてから、かくしにある千草色をした陽の勾玉を強く握りしめた。
「今度こそ、俺が奴を殺す」
「・・頼むよ、いばな」