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三年前の三月八日。
高校の卒業式を終えた私たちは校門を出たところで四人集まり、背中を丸めながら相談をしていた。
「これからどうする?」と、裕紀が真っ赤な手に息を吹きかけた。
何もない町だから、打ち上げとか謝恩会といった行事はない。
だけど、茉梨乃と裕紀が町を出ることになっているから、いつもの四人でなんとなく送別会のようなものをする雰囲気ができていたのだ。
「腹減ったな」
和哉がおなかをなでるけど、この町にはラーメン屋すらない。
岬まで行けば観光客向けの食堂もあるけど高いし、この頃はまだ誰も車の免許を持っていなくて、交通手段のない私たちの選択肢にはならなかった。
「そういえば俺んちに肉あったぞ」と、裕紀が小気味よい音をさせながら手をたたいた。
「マジかよ。焼き肉パーティーだな」
「でも、そんなに量はなかったか」
「なんだよ、だめじゃん」
あからさまにガッカリする和哉に苦笑しながら茉梨乃が提案した。
「焼きそば買っていって、そのお肉で作れば?」
「それもいいな」と、和哉が早速コンビニに向かって歩き出す。
と、期待して来たものの、焼きそばは三パック入りのが一袋しか置いてなかった。
もやしでかさを増やしたところで四人分には足りない。
「裕紀の家にご飯ある?」と、口まで覆ったマフラーを外しながら茉梨乃がつぶやいた。
「冷凍庫にラップしたやつがあるぞ」
「じゃあ、焼きそばとご飯でそばめし作るよ」
「お、いいね」と、和哉が横から顔を突っ込んだ。
「あんたはおなかがふくれればなんでもいいんでしょ」と、和哉の肩をつつくと茉梨乃は焼きそばともやしの袋をカゴに入れた。
ドリンクやポテトチップスなんかを追加して店を出ると、裕紀の家まで海沿いを歩く。
鉛色の空がいつになく低く、雪が降り出してもおかしくない天気だったけど、めずらしく風の弱い日だった。
歩道の端にはおととい降った雪が積み上げられていた。
先頭を歩く裕紀が、ぶら下げた二リットルのペットボトルを振り子のように揺らして雪を後ろにまき散らす。
「なんだよ、冷てえな」
和哉がそのかたまりを蹴ってやり返すのを、茉梨乃はマフラーを巻き直しながら眺めている。
その横顔に浮かぶ笑みを私は見つめていた。
私たち四人は生まれた時からこんな感じだった。
この町で生まれ、この町で育ち、この町で遊んだ。
既視感が濃すぎて、何度目なのかも分からない。
「遙香はまた泣かなかったね」
茉梨乃のつぶやきを拾った裕紀が振り向く。
「中学の時も言われてたっけか」
「みんな泣いてるのに遙香だけは冷ややかな顔で眺めてたのよ」
「なんでよ。悲しくないのか?」と、和哉が私をのぞき込む。
私は海に視線を流した。
べつに悲しくないわけじゃない。
実際、茉梨乃や裕紀は町を出るし、他にも進学組や就職組で都会へ行く人たちは多い。
小中までの卒業式とは意味が違う。
これまでと同じじゃないってことくらい分かってる。
だけど、泣きたくなるかと言われれば、涙が出なかっただけだ。
そもそも裕紀だって和哉だって泣いていなかった。
男子だから?
肩をたたき合いながら泣いてるやつらもいたよね。
それに、私は知っていた。
茉梨乃だって、みんなに合わせて泣いているふりをしていただけだ。
涙なんか一粒も光っていなかったくせに。