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 昼前になって店の自動ドアが開いた。
「よう」と、大柄な和哉が封筒の束を掲げて入ってくる。
 私と同じ学年だった和哉は高校を卒業して地元の郵便局に就職した。
 毎日顔を合わせるし、配達ついでにお弁当を買っていくけど、特に会話はない。
 なのに今日に限って会計が終わってもレジ前で鼻の頭をかいている。
「今日さ、茉梨乃が帰ってくるって知ってるか?」
 へえ、そうなんだと、私は目で返した。
 茉梨乃は高校を出て、札幌にある三年制の看護専門学校に進んだ。
 学生寮があって奨学金ももらえる道立病院付属の学校をわざわざ選んだのは、この何もない町から出たかったからなんだろう。
 夏は実習で多忙、お正月は国家試験対策などと理由をつけて、もう一年以上里帰りしていない。
「バスで来るらしいから、着くのは夕方だな」
 かつてこの町にも来ていた鉄道は、十年前に直撃した台風の影響で高波が押し寄せ、海沿いの線路を洗い流してしまい、復旧しないまま廃線になってしまった。
 それ以来、代替バスが走っているけれど、年々本数は減っている。
 一番近い都会からは一回乗り継ぎがあって、最低でも六時間かかる。
 想像しただけで車に酔ってしまう私には一生縁のない話だ。
 自分で運転するのは問題ないんだけどね。
「なあ、三人で飯でも食うか」と、横を向いて店内を見回しながら和哉がつぶやいた。
 私は軽くうなずいた。
「裕紀もいればいいんだけどな」
 それには私は返事をしなかった。
 裕紀は私たちの学年で一人だけ東京の国立大学に進んだ秀才で、卒業以来一度も顔を見ていない。
 私は卒業後、自分でスマホの契約を変えてから和哉以外に連絡先を教えていない。
「じゃあ、仕事終わったらまたここに来るよ。定時で終わるからさ」
 店を出て行く和哉の背中は羽でも生えてふわふわと浮いているように見えた。