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 私は卒業式で泣いたことがない。
 少子化の進んだ町では小中学校が統合されていて、しかも各学年一クラスずつしかなく、小一から中三までいつも同じ顔ぶれだったから、卒業と言ったところで何も変わらなかったし、高校も地域に一つしかないから結局持ち上がりで、別れを経験することがなかった。
 先輩後輩も自分たちの兄弟姉妹がほとんどだし、先生に対しては、『何もない町まで教えに来てくださってありがとうございました』と、離任式の方がむしろ町ぐるみの重大イベントだった。
『北海道はでっかいどう』と言うけれど、あまりにも大きすぎて、山と海に囲まれ乱暴な風にさらされた私たちは何もない町で狭い人間関係の中に閉じこもっているしかなかったのだ。
 狭い町ではお互いの頭の中まで透けてしまう。
 幼い頃から引っ込み思案だった私は、自分から何か言おうとする前に相手に言葉を奪われてしまい、ますます感情表現が苦手になっていったのだった。