やがて、永野君がおもむろに立ち上がり、
「あの、さ。何て声かければいいのか分からないけど、その……待つのはいくらでもできるから」
顔をあげて見ると、永野君は目をそらした。
「ストレッチしてるから、気にすんな」
そして、アキレス腱を伸ばし始める。
永野君がリズミカルにスクワットをしている。額の汗が流れ落ちるのが見えた。
「よし、筋トレ8セット終了」
ハァハァと息を切らしながらドサっとその場に座り込む。
「だんだん面白くなてきたぞ。限界に挑戦だ」
しばらくすると、お客のいないバスが来て扉が開いた。
「あ、すみません。乗りません」
と永野君が答えると、扉を閉めバスは走り去る。
永野君は息を深く吸い込んだ後、地面に腕をついて腕立て伏せを始めた。
「よし、勝負だ。俺の限界が早いか。星音がしゃべれるようになるのが早いか。負けねえぞ」
と言って腕立て伏せを加速する。
カエルの合唱と永野君の、フッ、ハッという気合の呼吸がリンクする。
……? 何が勝ちなんだろう? そこは良く分からなかったけど。私は「フフフ」と心で笑っった。
まだ声は出なかったけど。
それから、どれぐらい時間が経っただろうか。私は、手をぎゅっと握りしめると立ち上がり、深呼吸をひとつした。
「あっ、あっ、あー、あー、あー」
力をこめた。
「ああああああーーーー」
!
「でた!!」
私の声にびっくりした、永野君が振り返る。
「ど、どうした?」
「でた!!」涙目で永野君に訴える。
「え? 何が、何が出た?」
そう言うと永野君は身構え、周りを見渡した。
「虫か? それとも、もしや……ど、どこだ、どこに出た」
永野君は自分の後ろや足元を、バタバタと慌ただしく確認する。
「ちがう。声が、でる……震えるけど」
「えっ? 何」
「で、でるの、私の声」
「あ、ああ、声」永野君が肩の力を抜いて脱力する。
「うん」
と答えて、私は深呼吸をした。そして、力を込める。
「ごめんなさい」
「……」
「本当にごめんなさい」頭を下げた。
「騙すつもりなんてなかった。でも、どうしても仕事で……嫌われたくなくて……騙すつもりなんてなかったの。信じて欲しい」
また、声に詰まる。
「……本当にしゃべりたかったの。その」
声が震える。
「どうしても、どうしても、どうしても……だって」
涙を拭き、一呼吸を入れた。
……お願い、持って。もう少し、もう少しだけ。
「ごめ、ん。もっと、いっぱい、しゃべりたいのに、また、声が出なくなるかも」
呼吸が詰まる。そして苦しくなって息が荒くなる。
「いいよ。大丈夫。分かったから」
永野君は、ゆっくり優しく答えてくれた。
「落ち着いて、また、待つから」
「……うん」
「座ってほら」
私は永野君に促されて、長椅子に腰掛けた。
「よし! 今度はもも上げだ」
と言うと、永野君はその場で激しく足を交互に上げ始めた。
「あれ、浴衣だと、うまくできねえな、ハハ」
今度はすその端を持ち上げ、ぎこちなく腿上げを繰り返す。やがて止まり
「ハァ、ハァ、ハァ、ほら、俺の方が息きれてる。落ち着くまで、一緒に待とう」
というと、長椅子の端にドカッと腰掛けた。
いつの間にかカエルの声は聞こえなくなり、小さく虫の音が響いていた。そして永野君の呼吸音が聞こえる。夜空では星が瞬くなか、ポツンと二人、座っていた。
「あの、さ。何て声かければいいのか分からないけど、その……待つのはいくらでもできるから」
顔をあげて見ると、永野君は目をそらした。
「ストレッチしてるから、気にすんな」
そして、アキレス腱を伸ばし始める。
永野君がリズミカルにスクワットをしている。額の汗が流れ落ちるのが見えた。
「よし、筋トレ8セット終了」
ハァハァと息を切らしながらドサっとその場に座り込む。
「だんだん面白くなてきたぞ。限界に挑戦だ」
しばらくすると、お客のいないバスが来て扉が開いた。
「あ、すみません。乗りません」
と永野君が答えると、扉を閉めバスは走り去る。
永野君は息を深く吸い込んだ後、地面に腕をついて腕立て伏せを始めた。
「よし、勝負だ。俺の限界が早いか。星音がしゃべれるようになるのが早いか。負けねえぞ」
と言って腕立て伏せを加速する。
カエルの合唱と永野君の、フッ、ハッという気合の呼吸がリンクする。
……? 何が勝ちなんだろう? そこは良く分からなかったけど。私は「フフフ」と心で笑っった。
まだ声は出なかったけど。
それから、どれぐらい時間が経っただろうか。私は、手をぎゅっと握りしめると立ち上がり、深呼吸をひとつした。
「あっ、あっ、あー、あー、あー」
力をこめた。
「ああああああーーーー」
!
「でた!!」
私の声にびっくりした、永野君が振り返る。
「ど、どうした?」
「でた!!」涙目で永野君に訴える。
「え? 何が、何が出た?」
そう言うと永野君は身構え、周りを見渡した。
「虫か? それとも、もしや……ど、どこだ、どこに出た」
永野君は自分の後ろや足元を、バタバタと慌ただしく確認する。
「ちがう。声が、でる……震えるけど」
「えっ? 何」
「で、でるの、私の声」
「あ、ああ、声」永野君が肩の力を抜いて脱力する。
「うん」
と答えて、私は深呼吸をした。そして、力を込める。
「ごめんなさい」
「……」
「本当にごめんなさい」頭を下げた。
「騙すつもりなんてなかった。でも、どうしても仕事で……嫌われたくなくて……騙すつもりなんてなかったの。信じて欲しい」
また、声に詰まる。
「……本当にしゃべりたかったの。その」
声が震える。
「どうしても、どうしても、どうしても……だって」
涙を拭き、一呼吸を入れた。
……お願い、持って。もう少し、もう少しだけ。
「ごめ、ん。もっと、いっぱい、しゃべりたいのに、また、声が出なくなるかも」
呼吸が詰まる。そして苦しくなって息が荒くなる。
「いいよ。大丈夫。分かったから」
永野君は、ゆっくり優しく答えてくれた。
「落ち着いて、また、待つから」
「……うん」
「座ってほら」
私は永野君に促されて、長椅子に腰掛けた。
「よし! 今度はもも上げだ」
と言うと、永野君はその場で激しく足を交互に上げ始めた。
「あれ、浴衣だと、うまくできねえな、ハハ」
今度はすその端を持ち上げ、ぎこちなく腿上げを繰り返す。やがて止まり
「ハァ、ハァ、ハァ、ほら、俺の方が息きれてる。落ち着くまで、一緒に待とう」
というと、長椅子の端にドカッと腰掛けた。
いつの間にかカエルの声は聞こえなくなり、小さく虫の音が響いていた。そして永野君の呼吸音が聞こえる。夜空では星が瞬くなか、ポツンと二人、座っていた。