連続で打ち上がる花火の音が木霊する。
 私は打ち上げ花火の光を頬で感じながら、息を切らして走った。やがて、住宅地を抜け畑の道へと差し掛かった頃、永野君の姿を捉えることができた。畑の中の道で、遠くの花火を眺めている。
 次々と上がる花火はフィナーレが近い。そして、特大の一発がドン! とあがり、周りに静寂が訪れた。

 私は永野君に駆け寄り、さっと腕をつかんだ。
「ギェッーーー!!」と永野君は驚いて飛び退いた。
「な、なんだよ、ビックリしたー。変な声でたじゃねーか」
 私は、ハァハァと息が切れて、身をかがめ俯いてしまう。それでも、何とか声をだそうと
「っぐ」
「ぐっ?」永野君は訳が分からず困惑する。
「っあ」
「あ?」
「……っあ」
「ああ」分からず、頭を描く永野君。
「ハァ、ハァ」息が続かず俯いた。
「な、何? もういい?」
 永野君は、怪訝そうな顔をすると、背を向けて歩いていく。
 私は喉に、ありったけの力を込めた。……お願い神様
「……っ……まっ……っ、待って」
 歩みを止めた永野君が振り返る。それを見て、必死に声を出そうとするが続かない。仕方なく体を90度に曲げて謝る。
「な、なんだよ」と驚く永野君。
 私はその場に正座して土下座をした。
「やめろって。何やってんだよ」
 言葉の出ない私には、もうこれしか。
 ……ごめんなさい。
「分かった。分かったから。な、ほら、立てって」
 永野君が、肩を持って立たせてくれる。
「正直、訳わかんないけど。待てって言うんなら待つよ。だから、落ち着け、な」
 私は、コクンとだけ頷いた。



 目の前の畑には、暗闇が広がる。頼りない光の街灯の下、バス停のベンチに、永野君と二人腰掛けた。生暖かい空気とともに、用水路の方からはカエルの鳴き声が聞こえてくる。
「落ち着いたか?」
 まだ呼吸が乱れている私は、永野君をみて微妙な表情を返した。
「しゃべれないの?」
 パッと顔を上げて、激しく頷く。
「待てばいいの?」
 黙って頷いた。
 ……うん。
「分かった。じゃ、待つから」
 静かに、でも永野君の目を見て頷いた。
 ……うん。
「待つから」
 そう言うと永野君は、下を向く。
 バス停のベンチに二人、何かに取り残されたように座った。
 静かに時を待った。