ギュイーーーン
 ギターの音が、作業場の空間を切り裂く様に鳴り響く。スピーカーにコードで繋がれたスマホの画面には、hard rock music【good bye today♪】の文字。スピーカーから轟くその激しい音に合わせ、私は襖の枠を外す為に、枠に当て木を添えて金槌でたたく。
 ゴン、ゴン、ゴンゴン。
 もうヤケクソだ! 虚無感の奥底から怒りが込み上げて来た。そうよね、そんなもんよね。単純な私は、諦めを受け入れる代わりに、怒りを爆発させていた。Tシャツに、穴開きの作業ズボンに着替えた私は、一心不乱に金槌を打ち付けた。
「これが現実かー。クソ、クソ、クソー」
 緩んだ襖の枠を、慣れた手つきでスライドさせて外す。
「はい枠、一丁取れました。気をつけておばあちゃん」
 枠を、傍にいるおばあちゃんへと渡す。
「はい。あと少しね」
「あっつー。もう、Tシャツびしゃびしゃ。おばあちゃん、そこのタオルとって、頭にまくから」
「はいはい」
 私は、おばあちゃんからタオルをもらうと、頭に巻いて一息ついた。お母さんの大変さが身に染みてわかる。
「お茶でも飲んで休憩すれば。よいしょっと」
 そう言うと、おばあちゃんは立ち上がって奥のキッチンへ入って行った。
「虚しい」と呟いて、私は金槌を見つめた。

 限度を超えた怒りが収まると途端に深く暗い虚しさの穴に落ちていく。
 ……こんなもんだ、私の運命。私らしい。
「でも」
 私は、hard rockの曲に合わせて、激しく金槌で、当て木をした襖の枠を叩きながら叫んだ。また、怒りがふつふつと湧き上がる。
「どうして! どうしてなのー。もう嫌!! クソ、クソ、クソー、バカー、神様のいじわる。いじわる。いじわる。あーーー、もうーー!!」
「おーい」
 私の叫ぶ声の向こうから男の声が聞こえてきた。
 ふっ、と金槌で打つのを止める。
「おーーーい」
 私は、慌ててスマホからの音楽を止める。
「おいって」
 扉の外に浴衣姿の永野君が立っていた。手に持っていた金槌を、工具箱に落として『ガシャン』と音が鳴り響いた。
「うっそ!? 永野君! キャ~~~~~~!!」
 という私の悲鳴に、夜空に打ち上がる花火の音がリンクして「バン」と弾けた。