この頃になると父は、怠け者のようにあまり船を出さなくなっており、酒を飲まないと手が震えた。彼の父はアルコール中毒になっていたのだ。

 仲村渠は十八歳で父と決別し、家を出た。

 身体は丈夫で力もあったから、すぐに仕事は見つかった。

 新しい生活の場としたのは那覇だった。彼は、働きながら大学に通い、そして卒業した。

 それから縁があって公務員試験の話を受け、役所勤めになったのはその数年後だ。それからは定年退職まで職が変わることはなかった。

 定年退職後は、静かな暮らしが続いた。

 仲村渠は那覇新都心に一軒家を構えている。


 ――彼がその自宅で、先日に中部で出会った『シーサーの置物を持った巫女服姿の中年男』の悪夢に飛び起きたのは、朝の七時半のことだ。

「はぁっ、はぁ……なんだ、夢か」

 というか、とてつもなくひどい悪夢じゃねぇか、なんて思った。

 先日の調子外れの声がドンドコ聞こえてきそうで、仲村渠は眩暈を覚えた。

(――くそっ、奴は俺の夢にまで現れるってのか!)

 心底憎たらしい。

 そんなユタの男から餞別にいただいたシーサーのお面は、とうとう捨てきれずに、寝室の机の上に置いていた。