――そのとき。


…コトン


なにかが足元に落ちる。

それは、傾いたバッグから飛び出たさっちんのイヤホンだった。


ここでやめて帰ったっていい。

もしかしたら、どこかでさっちんと連絡が取れるかもしれないから。


だけど――。

ここでやめたら、これまでの努力が無駄になる。


心が折れて逃げ出したあのときの自分に戻るんじゃないだろうか。


…そんなのいやだ。


わたしは…変わりたい。

変わったんだって思いたい。


こぼれ落ちそうになった涙を指で払うと、わたしは立ち上がった。


そのあとも、さっちんの部屋を探し続け――。


そして、見つけた。


〈高木はうちですけど…〉


7階の708号室だった。


〈わたし、幸歩ちゃんと仲よくしていただいている乾みのりと申します…!〉