〈“乾さん”…?〉

〈はい!〉

〈申し訳ないんだけど、他のお宅と間違われてるんじゃないかしら?たしかにうちは高木だけど、幸歩なんていう名前の家族はいないから〉

〈…えっ〉


そうして、インターホンは切れた。


せっかくさっちんの家だと思ったところは、別の『高木さん』だった。


…さっちん、どこにいるの。


ここは4階。

これより上には、まだまだ部屋がたくさんある。


その中にさっちんの家があるはず。

だけど、もしかしたらこれまでインターホンを押して留守だった部屋がさっちんの家だった可能性もある。


今になってそのことに気づいた。


どこの部屋が留守だったかなんて…覚えてないよ。


メンタルが削られたわたしは、その場で力なくしゃがみ込む。

うつむいたら目の奥が熱くなって、涙が出そうになった。