あのときも、毎日夏空には入道雲があった。


その瞬間、わたしの中でずっと止まっていた時計の針が動き出す。


夜の7時前。

ようやく空が薄暗くなり始めたころ、お母さんが仕事から戻ってきた。


リビングからは、キッチンで夜ごはんの支度をする音が聞こえる。


「お母さん」


リビングの入口からわたしがそう呼ぶと、フライパンで炒め物をしていたお母さんの手が止まる。


「みの…り…?」


目を丸くして、わたしを凝視するお母さん。


当たり前だ。

わたしは部屋にこもりっきりで、この2年まともに顔も合わせていないのだから。


「…どうしたの?なにかあった…?」


コンロの火を止め、お母さんはゆっくりと、遠慮がちに、わたしに歩み寄ってくる。

その目元は、潤んでいるように見えた。


「べ…べつに、なにかあったわけではないんだけど…」