翌日の夕方、校門で遥菜と亜希は待ち伏せていた。すると一人で帰ろうとする雅記が校門へとやって来る。遥菜は心臓が飛び出しそうだ。
「や、や、やっぱり無理」
「ダメだよ、ほら!」
 亜希は遥菜を雅記の方へ押し飛ばした。
「ヒャッ」
 勢いで、雅記の腕にぶつかってしまう。
「大丈夫か?」
「あ、はい」
「あ、君は昨日の……」
「昨日はいきなり、すいませんでした」
 遥菜は告白するどころか、謝っていた。
「別にいいけどさ。恥ずかしかったんだよ、周りにクラスの奴らがいたから。あのさ」
「はい」
「いないよ」
「え?」
「だから、俺は好きな人はいないって。俺みたいな嫌われものを受け入れてくれるのは、音楽だけだ」
 離れたところで亜希が遥菜にジェスチャーでエールを送っている。遥菜は、とうとう覚悟を決めた。
「あの」
「ん?」
「あの、私は雅記先輩が、先輩が……好きです」
 言い終わると、雅記の表情を見るのが怖くて下を向く。
「え?」
「迷惑ですか?」
 遥菜はおそるおそる顔を上げる。
「あ、いや。俺はやめた方がいい」
「私じゃ、ダメですか?」
「そうじゃないよ。ごめん、その、俺は、俺は」
「どうしたんですか?」
「俺は……自閉スペクトラム症ってヤツだ。小さい頃から発達障がいって言われて、よくバカにされてきた。自分で自分を変だとは思ってないけど、周りは俺を『変で、こだわりが強くて、コミュニケーションが苦手な障がい者だ』ってレッテルを貼ってる。俺なんかといると君まで変な目で見られるよ」
「私はそんな個性も含めて、雅記先輩が好きです。先輩の楽曲も、プロ級でかっこいいです。毎日聴いています」
「最初はみんな、俺を個性的だって言ってくれる。でもさ、深く知るようになったらみんな、俺から離れていく。君もきっとそうだよ」
 雅記は、悲しい顔をしていた。
「俺が普通の恋をするなんて、無理なんだよ。それに俺、東京に行くしさ」
「いつ、東京に行くんですか?」
「来週の火曜日」
「卒業式の日じゃないですか?」
「そうだ。午前に式が終わったら、さっさと出ていくよ、この街も高校も。だから、ごめん」