「あなたがどんな人間でも構わない。あなたが好き……」
ずっと蓮に惹かれていた。同時に彼に対しては畏怖を抱いていた。それは本能的なもので、理屈ではない。決して穏やかな感情ではない。むしろ不吉な予感すら孕んでいる。
片桐と向き合うのは、深淵を覗き込むような恐ろしさがある。どんなに警戒しても丸ごと闇に飲み込まれてしまうような怖さが。
体中の力が抜けている。もうどうなっても構わない。
片桐は痛みをこらえるような表情を浮かべた。
「俺もあなたが欲しい」
なぜだか蓮がとても苦しそうに見える。
その苦しみを自分は少しでも楽にすることはできないのだろうか。できるのならばそうしたい。
その言葉は愛に飢えたすみれを酔わせるには十分だった。二人の間に生まれつつあるものが本当に愛なのかわからない。それでもいい。
男がすみれを見る瞳にかつてない炎が宿る。
その声も、目も真剣そのものだった。だが、彼の抱える深刻な秘密の香りに心のどこかで気づいていた。