「んっ」

 息もできないほどに、唇を貪られ、思わず顔をそらそうとすると、逃すまいと大きなてのひらがすみれの頭を抑えた。
 緊張と混乱の中、じわじわと熾火のように体の芯が熱くなり、頭の中が白みはじめる。
 今はこの手以外にすみれが頼れるものは何一つなかった。

 ──どうして今までこの思いをごまかしていられたのだろう。
 
「俺はあなたが思ってるような人間じゃない」

 その声の響きになにかしらの不穏さが漂っていたが、すみれは考えまいとした。
 これがすぐに破滅に向かう恋だとしても、もう後戻りはできない気がしていた。