あっさりと言われて拍子抜けした。

「注目されるのも大変だ」

 いつも敬語の片桐がどこか皮肉気に笑う。彼が笑ったのを見たのは初めてだ。 

「あなたはどうしてここへ?」
「ちょっと夜風に当たりたくて。少し待っててください」

 片桐が少しその場を離れ、すぐに飲み物をもって戻ってきた。

「どうぞ」
「ありがとう」

 冷たいレモネードを飲むと少しすっきりした気分になる。それ以上なにも聞けなかったが、自分を気遣ってくれたことが意外だった。

 波の音と、会場から漏れる音楽が混ざり合い不思議な時間が流れた。
 無言で海を眺めているとその暗さと静けさに、不思議と心が凪いでくる。

「今日は静かだ」
「あなたはどうして……」