こんな時は、なにが正解でなにが間違いなのかわからなくなる。
 船首のほうを見ると、そこには誰かがいた。
 
 父の秘書、片桐蓮だった。遠い海の向こうを見る瞳が、なぜだかひどく悲しげに見えた。すみれは、そのもの言わぬ背中から片桐が泣いているように思えた。
 しばらくの間、すみれはその後ろ姿から目を離せなかった。

 視線を感じたのか、片桐蓮が振り返る。

 長い前髪が風になびいている。その瞳がすみれの存在をとらえて、色を変える。