入社してすぐ、ダメ元で出したコンペに、すみれの作品が選ばれた。本来、デザイナーの名前は小さく表記される程度だが、その時は違っていた。
 すみれの父のことがわかるようインタビューまで掲載された。
 そのことには、すみれも引っかかってはいたが同僚たちはすみれ以上に不審に思ったことだろう。

「やっぱどの世界もコネだよね」
「ほーんとイヤになっちゃう。いくら頑張ったって、大臣のお嬢様が出した拙いデザインが採用されるんだもん、やってらんないよね」

 最近大手化粧品会社が売り出す香水のデザインもすみれが担当することになった。大々的に広告も出される予定の大きな仕事だった。

「新人にあんな大事な仕事やらすなんて非常識だよ。もう会社やめよっかな。なんかここに来てる人達も住む世界が違くって、自分が惨めになっちゃった」