──好きになったのは、決して結ばれてはいけない人だった。

ぐらり。
世界が歪み、地が揺らいだ。倒れこみそうになったすみれを後ろから男が抱き留める。

「もう忘れろ。忘れろよ」
 
 息もできないくらいに抱きすくめられ、蓮の広い背に手を回した。
 これ以上ないほど強く抱きあっていると、満たされそうな気持ちと飢餓感みたいなものが同時に湧き上がってきて、自分でもそれに戸惑う。わかっているのは、もう後戻りできないほどに彼に惹かれているという事実だけだった。
 蓮に縋り付いていないと、自分というものがバラバラに砕けてなくなってしまう気がして、すみれは無意識に片桐の背にしがみついた

 ──これだ。私が欲しかったただ一つのものは。