秋色のふたりは恋で強くなる。
秋色が深まっていくたびに、
私たちは迷いを強め、
友達以上恋人未満を抜け出すことができない。
イチョウ並木の下で
君は午後の日差しに照らされ、
黄色に輝いている。
君に感じた気持ちは確かだと思うし、
もし、できるなら、
君の心の傷や、
君の過去をもっと知りたい。
だから、覚悟を決めて、
君の名前を静かに呼ぶと、
君が優しく微笑んでくれたから、
言いたかったことがすべて吹き飛んでしまった。
☆
メビウスの輪をヘアバンドで作った。
テーブルに宇宙ができた瞬間、
彗星が最接近するニュースが流れた。
オレンジジュースを飲んで、
何も考えないで輪を見る。
今、目の前に
飛び込む情報に
惑わされて、
興味もないのに
星を探しに行きたくなった。
もう少しだけ、
流されない軸が欲しい。
☆
終わった夏が忘れられず、
砂浜を歩いている。
ビーチハウスはとっくに壊されて
はしゃいだあの夏はもう終わっていた。
君と駆け抜けた波打ち際、
穏やかな波が砂をさらっていく。
冷たい風。
遠くでなびくすすき。
高くなった透明な空。
過去が流れて、
涙が止まらない。
君はどこへ行ったの?
☆
ガランとした駅の中は
ほのかにコンクリートの冷たさがある。
電車を待つのは、
青いプラスチックのベンチに座る
君と僕だけだった。
「連れて行ってほしい」
「どこへ?」
「どこかに。そんな気分なの」
君は改札を見て、
真剣そうに訴えた。
君の表情は
夏が終わったかのように
寂しかった。
☆
雨で黒いコンクリートに
街灯が白く反射している。
死にたくなったから、
雨に打たれて
歩いている。
日曜日のこんな時間だから、
雨粒が草や木々にあたる音がする。
おだやかな雨は
なんでこんなに愛があるのだろう。
昨日までを洗い流してほしい。
と願ったら、
熱い涙が止まらなくなった。
☆
大型旅客機が
轟音を立て
夜空に赤白を点滅させ
頭上を飛んでいった。
公園をランニングしている。
涼しい風を背に受け
呼吸を一定にする。
いくつもの白い街灯をくぐり
ゆるいカーブを駆け抜ける。
もっと、スマートでありたい。
だけど、そうあれない。
だから、弱いんだよ。
息が切れた。
☆
「調子悪い日は、大人しくしたらいいよ」
そう言って、
君はマグカップを手元に置いた。
コーヒーの香りが立ち、
香ばしい甘さが空気を凛とさせた。
頭がまわらないけど
グズだと思わないで欲しい。
そう思い、
コーヒーを一口飲んだ。
礼を言うと、
君は微笑み、
そっと部屋を出ていった。
☆
深くなった緑のゆらめきを
バルコニーから眺めている。
煙草がもうすぐ燃え尽きそうだ。
フィルターぎりぎりまで
吸うのは身体に良くないけど
そのまま吸っていたい気分なんだよ。
先なんてわからないから
今を生きるだけだけど
たまに辛くなる。
吸い終わってすぐ、
遠くで踏切が鳴り始めた。
☆
電車の中は弱冷で機械的な清涼を浴びている。
ないものねだるのって、
解散したバンドの新曲を期待するみたいだ。
寒がりな君は
弱冷房車を選ぶことを思い出した。
寂しさ隠すのって、
二度と会えない君に期待するみたいだ。
戻れないから、
イヤホンでこの曲、聴いているんだよ。
☆
秋雨がガラスを打ち付けている。
日が短くなったから
すでに街灯が目立ち始めている。
カフェの中は変わらず大人しくざわついている。
Mac bookの画面は何も変わらず、
コーヒーだけが減っていた。
別に好きで大人やってるワケじゃないんだよ。
キーボードで打ち込んだ後、
deleteを連打した。
☆
ホームで新幹線のガラス越しに手と手を合せた。
君は目で何かを訴えていた。
発車ベルが鳴ったから、
僕はそっと手を離した。
あの時、小指と小指で誓ったことや
これまでのことが夢になるのは、
炭酸が徐々に抜けるようなものだ。
新幹線がゆっくり動き出した時、
君は小さく手を振った。
☆
冷たい雨に打たれた。
今日もずぶ濡れで玄関の電気をつけた。
ぶどうの美味しい季節に
なぜか、馴染めなくて、
毎日が憂鬱で締め付けられる。
秒針が常に回り
気持ちだけが置き去りにされる。
この世界は、
寄り添うだけで十分なはずなのに。
実際は殺伐としている。
時間がないのはなぜ?
☆
夜のベイエリアは波の音が響き、
オレンジの街灯がファンタジーを作っていた。
ショートボブが踊るくらい
駆け抜ける君は、最強にやんちゃだね。
大きな声で君を呼んだら、
君は振り向き僕を手招きした。
だから僕も君の仕草を真似して
君を手招きしたら、
「もう」と言う声が響いた。
☆
電球色したオープンテラスで
君と飲んでいる。
少し冷たい風が心地よかった。
「出会ってもう、3ヶ月経つね」って君は言った。
君はカルアミルクでもう、赤かった。
ソルティドッグを飲み干したあと
夏はもう終わってたなと思いながら、
グラスを置いた。
「ねえ、最高だね」って君は静かにそう言った。
☆
青白い摩天楼を縫うように
張り巡らされたオレンジの高速は
スムーズで快適だった。
湾岸方面へ抜けようとしている。
君の乗る最終便に間に合いそうだ。
右カーブのあと、
ボトルホルダーから
缶コーヒーを取り、
一口飲むといつもの泥みたいな味がした。
一瞬でも早く君に会いたいと思った。
☆
本屋で思いっきり息を吸い込む。
インクとコーヒーが混じっている。
9月はいつも自分を見失う。
だから、こうして、
膨大な書籍の中から
手当り次第、自分が求めている文を探す。
本屋は穏やかすぎて、
たまに死にたくなる。
だけど、それがいい。
迷っちまえば気が晴れるはずだ。
☆
日曜日の夜、
アーケードはシャッターの前で踊る人と
ギターで弾き語りをする人しか
盛り上がっていなかった。
そんな人達の前を横目に歩きながら、
あなたとの約束を
一つ破ったことを思い出した。
あのとき、
あなたのことをしっかり見て、
もっと心を開いていたら
どうなっていただろう?
☆
すすきが夕日で輝いている
君はそれをプリズムと言った
ストロベリーパフェのような
凛々しさとあどけなさが、
君は最強でレベチだね
5時のチャイムのような
寂しさとやるせなさが、
君と離れたくない理由なんだよ
君が求めているのなら、
無くした捜し物みたいに
綺麗にワープして消えてやる。
☆
雨の水曜日にさよならを告げる。
深夜の公園は雨がしとしと降っていて、
水瓶の中のように暗く湿っていた。
雨の夜中にさよならを告げたい。
深夜の公園は自問自答に最適で、
ここで未来を決めては
明るい希望を作る。
どうして生きるのって、
こんなに面倒なんだろう。
頬に雨粒があたった。
☆
秋の日差しでイエローゴールドが薬指で輝いている。
白い太陽に手をかざし、おもいっきり呼吸をする。
手を動かすたびにメビウスが乱反射して
夢のような導きを与えてくれる。
今は忘れたい。
恋のこととか、
今後のこととか。
iPhoneで収める瞬間より、
今、この瞬間の光を集め続けたい。
☆
木々が色づき始め、
冷たい風で季節が進む。
燃えるような夕日であなたとの影は長くなる。
あなたとの夏の思い出は、
ベースラインをなぞるように遠のいていく。
レモンのように爽やかに溶ける気持ちは
忘れないようにしたい。
ただ、手を繋ぐだけでいい。
そう思えるような夕焼けだった。
☆
コスモス柄のワンピなんて
子供っぽいかなって思ったけど、
思いっきって着たら、
私は鏡越しで秋になった。
秋の朝日が最高の一日になることを教えてくれていた。
iPhoneに君からの通知が来た。
それだけで胸が高鳴る。
これからのあなたとの時間が
最高にロマンティックになる予感がした。
☆
涼しくなった公園で二人で話している。
時間は簡単に溶け、
夕闇は夜になっていた。
手を繋いで悔しい気持ちを
聞いてくれる君は死にたい甘さすら、
包めるくらい優しかった。
二人で座るベンチは、
スポットライトのように街灯に照らされている。
君の手を強く握ったあと頬に涙が伝った。
☆
秋雨が空想を曇らせる。
冷たさが切なさを作る。
自問する帰り道
責める声が脳内で反響する。
ビニール傘の下は雨音が鈍く響いている。
もし、過去に行けるなら、
臆病を超えたい。
このまま沈むように
青く深いところまで連れて行ってくれない?
そしたら、答えが見つかる気がするから。
☆
自由になりたいから、
真夜中のコンビニで、
濃厚バニラといちごパフェとモンブランをかごに入れた。
時計の針は回る。
すでに頭の中は鐘が鳴る。
今日も上手く行かなかったことを
忘れ去るために自分に魔法をかけたい。
最高にとろける甘さの向こうにある
明日の現実を思うと、
ため息が出た。
☆
窓の外に広がる週末の繁華街は
ネオン色で宇宙を作っている。
今日も通勤電車は
疲れ切った人たちを規則正しく運んでいる。
眠い目をこすり、
「愛している」と打ち込んだ。
それを一息おいて送信した。
君はいつも夢で会えないから、
君への思いが溢れ出てくる。
明日会う君になんて言おうかな。
☆
起きたら君がいないみたいに
秋雨が街を灰色にしていた。
起きてコーヒーを淹れた。
昨日、閉店前のパン屋で買った
クロワッサンと一緒にデスクに持っていく。
iMacを起動し、
クロワッサンを食べる。
低血糖で見た夢は、
一人で箱の中に閉じ込められていた。
しぶきが窓を溶かすように濡れていた。
☆
公園の並木道を自転車でくぐる。
木々はいつのまに黄色になり始めていた。
こないだ振られたことを思い出すほど、
風は冷たかった。
淡い日差し。
木陰のベンチ。
空を写す水面。
すべてが優しく暖かい色をしてる。
かごのかばんが揺れる。
お守り代わりのテディベアが
微笑んでいる気がした。
☆
「なんとかなるでしょ」と
君は笑いながらそう言った。
右手を目一杯に伸ばし、
かすみ雲を手にしようとした。
空は日に日に高くなり、
季節はどんどん深まっていく。
思いは空想に。
真実は理想に。
未来は夢想に。
どんなに未来が暗くても、
手をつなぎあって、
君と乗り越える勇気があればいいと思った。
☆
熱々のコーヒーを飲んで
夜の街を眺めている。
駅前通りを歩く人たちは
みんな長袖を着ていて街は秋色になっていた。
1日中考えすぎて
熱くなった頭を冷ますカフェインは最高だ。
もう二度と叶わないことを
諦めるには、まだ割り切れてない。
あのときの熱い涙は素直な証だと、
ふと思った。
☆
「なにそれ面白い」
君はそう言ったあと、
ファジーネーブルを一口飲んだ。
君はいつも通りだ。
週末の夜、
今日も雨が降っていて
窓越しの世界を冷たく染めていた。
シックな暗さと気持ちよさそうに、
酔った君の顔を見ているだけで、
幸福度が上がる。
でも、よかった。
君と仲直り出来て。
☆
離れない約束はすでに無効で、
そんなことは忘れて
ぼやけた毎日を過ごしている。
そんな昔の誓いを思い出したのは、
夜の公園で自販機で缶コーヒーを買ったときだった。
タイムラインは止まったままで、
あなたとは、
お互い忙しくて、
交わる気配は微塵もない。
今更、後悔したって遅いね。
☆
横断歩道の真ん中で一気に冷たくなった風に吹かれた。
薄着したことを少し後悔した。
交差点を行き交う人達は
優しくなった秋の日差しに目もくれず、
忙しくどこかへ向かっている。
今の悩みなんて
そっちのけにして、
毎日をこなす強さは必要だけど、
もう少し、
ラフな生き方がしたい。
☆
死にたいときはいつも深夜で
思い上がった過去が殺しにかかる。
深夜の学校の中で、
青く照らされる蛇口をひねるように、
やり場の無い気持ちを孤独に流すよ。
この思いは、
誰かにかまってほしくて、
銃口をこめかみに当てるようなものだ。
なぜ、涙はこうも
無限に湧いてくるんだろう。
☆
通り雨が冷たい世界を作った。
ビニール傘で空中に魔法陣を描いても
何も起きることはなく、
白の街灯が傘からの水滴を
白く反射した。
君がいない夜は特別な物語が、
始まるわけではないのはわかっている。
砂糖を溶かすように悲しくなるけど、
いつだって、
大丈夫だって、
言ってほしい。
☆
夜の路地は街灯の弱い光で照らされている。
立ち止まり、白い満月に手をかざした。
指の間から漏れる光は妙に幻想的だった。
傷つきやすいから
無頓着で強靭なハートをください。
そう願った。
別に何も起きないけど、
身体が軽くなった気がした。
白けた空気に蹴りを入れたくなった。
☆
摩天楼を見上げると、
端々が赤く点滅していた。
あのタワーから身を投げ出すことは簡単だけど、
痛みに耐えるのは簡単ではない。
そういうものだ。
たがら、仕方なく今日も必死なふりするけど、
孤独感はまぎれない。
大切なことは、
すでにわからないけど、
矛盾も取り消せる魔法をください。
☆
連日、降り続く雨が秋を深めていく。
カフェから交差点を見渡す。
多くの人達が傘を差し、
目的の場所まで通り抜ける。
肩を叩かれて、
振り向くと君が
「おまたせ」と言った。
「待ちくたびれた」と言ったら
「ごめん」と君は笑って謝った。
隣の席に座った君との時間は尊い。
と思った。
☆
秋の半ばの銀杏並木道をあなたは駆け抜けていく。
そして振り返り、僕を手招きした。
あなたは木漏れ日に照らされていた。
カーキのアウターに黄色のスカートが、
なぜこんなにも似合うのだろうと強く思った。
もし、今、
僕が駆け寄って、
あなたを抱きしめたら、
どんな表情をするだろう?
☆
秋になると君のことを思い出す。
幸せなファンタジーは
突然、起きることをウォルトが教えてくれた。
だけど、いつも恋はすれ違う。
雨に打たれるタイミングと同じようなズレが多い。
嘘がたとえ小さくても、
本来の自分ではないからタイムラインは離れていく。
さよなら、青い思い出。
☆
マイナスなことなんて霧吹きで吹き飛ばそう。
うつつ抜かす暇はない。
核心を割って拾ろう。
イチョウ葉をつまむように優しくね。
黄色にシケた思いは
虚ろな社会を蹴りたいだけだ。
順応できず大人になった。
普通じゃなくて嫌気がさすね。
激烈な鬱を吹きとばせ、
撃つ、宿敵は己の内。
☆
街路樹が色づき、
日差しが黄色い昼下がり、
あなたと黙々と手をつないで歩いている。
季節は冬に向かって
移動している最中だけど、
あなたへの気持ちは変わらない。
別に行く宛なんてないけど
もどかしさなんてない。
このまま、
ただ、時間が流れればいい。
それだけで非日常になるから。
☆
モヒートを飲みきった。
週末のときめきは君が作り上げている。
酔いが回り、
より優しくなった君に
なぜ、引き込まれるんだろう。
会えない日々はたまらなく寂しかった。
今日はただ、
それを君に伝えたかった。
「このままだったらいいのに」
君はグラスを空にして
ぽつりとそう言った。
☆
いつもすれ違う。
その日に出来ることは
多くないから愛の言葉を
照れずに言える人はすごいと思う。
すれ違いは神様の芸術で
人為的ではないことを
誰かに証明してほしい。
取り繕うのは簡単だ。
トカゲに鱗を張り付けて
ドラゴンを飼っていると言い張った
ダヴィンチの逸話を思い出した。
【初出】
秋色のふたりは恋で強くなる。
新規書き下ろし 2023.10.14
蜃気羊Twitter(@shinkiyoh)
https://twitter.com/shinkiyoh
2021.9.1~10.31