「ねー、これってまだやらされるの?さっきから延々とダッシュばっかで、超疲れたんだけどー」

 わたしが作った練習メニューに、後輩たちから不満が出たのだ。

「先輩たちばっかボール使っちゃってさ、ずるくない?うちらには、練習時間の半分しか触らせないくせに」

 体育館の端からそんな声が聞こえてきた時は、耳を疑った。

 え……だってバスケで肝心なのはスタミナで、それには一からの体力作りが必要で……

 顧問やコーチ、そして歴代の先輩方から、わたしはそう教わってきた。
 現にわたしたちの代だって、入部してしばらくは、ボールを持つ時間よりも走っている時間の方が長かった。

 喉元に生産されたのは、粘り気の強い嫌な唾。それを懸命に飲み込んでいる最中(さなか)、次はこんな声が耳に届く。

「てかさあ、一体誰がこんな最低メニュー作ったの?たまにしか来ないおじさんコーチ?」
「違う違う、近藤先輩だよ。ほら、プロのバスケ選手が夢だとか言ってる部長」
「あー、あの人か。やたらといつも、ひとりで張り切ってる人ね」
「そうそう。気合いの入り方が、うちらとちょっとズレてんだよね。こっちはワイワイ楽しくバスケやりたいって、そんな気持ちで入部したっつーのに」