「ええっと、噂って……」

 しかし一転、その噂の内容が気になってしまえば、心の中は乱された。

 それってどんな噂?
 もしかして悪口?
 わたしのこと、みんな嫌ってたでしょ?

 一気に湧いた、たくさんの疑問符。だけどそれを口に出さなかったのは、「はいそうです、悪口です。みんな言いたい放題言ってましたよ」だなんて言われてしまえば、ショックを受けると容易に察しがついたから。

 言葉を紡げずに黙ったわたしを見て、都丸くんが首を傾げる。

「先輩?どうしたんですか?」

 上目の彼に、またもやドキッと鳴る心臓。ふるふると頭を横に振ると、彼は笑んだ。

「バスケお疲れ様でした、近藤先輩。では、僕はもうちょっと掃除が残ってるんで」

 そう言って、ぺこっとお辞儀をして、手元のホウキを動かす彼。軽快な音が響く。

 サッサ サッサ

 こんな遅い時間になっても、校内の美化活動に励む真面目な彼を見て、わたしは感心した。