「都丸くんの手紙があったから、わたしは毎日楽しく登校できたんだよ」

 そう言うと、都丸くんの揺らいでいた瞳が整った。
 まじまじとわたしを見て、ほんのり赤らむ彼の顔。

「だ、だって僕っ」

 ぎゅっとホウキの柄を握っていた。
 わたしもきゅっと、スカートの裾をつまむ。

「僕、近藤先輩の笑顔が好きなんです。だから先輩には、毎日笑っててほしかったんですっ。一時期ずっと、暗い顔で登校してくる近藤先輩を見て、なんとかしなきゃって思ったんですっ」

 都丸くんに初めて話しかけられたのは、夕方の校舎の玄関だった。
 バスケ部の先輩たちが引退し、顧問から部長を任されたわたしが、毎日思い悩んでいる頃のこと。

「入学式の日に、部活勧誘のチラシを新入生に配っている近藤先輩を見て、すっごく笑顔が可愛い人だなって思いましたっ。実は僕が美化委員になったのは、先輩の笑顔が見たかったからなんですっ。美化委員になって、玄関の掃除係を担当すれば、毎朝会えると思ったからっ」

 以前、都丸くんが口にした、美化委員になった不純な動機。謙遜だと思い深くはツッコみはしなかったけれど、まさかそんな理由だったとは。

「ふふっ。なにそれ」

 都丸くんが一生懸命紡ぐ言葉に、たちまち照れてしまったわたし。
 一瞬にして火照った頬は、おそらく彼より赤いだろう。

 ここは校舎の中の玄関。もうすぐたくさんの生徒たちが登校してくるから、ふたりきりの時間はそろそろ終わり。

 気持ちを伝えるには今しかないと、そう思ったから、すうっと長く吸った息を、都丸くんへの想いと一緒じゃなきゃ吐き出さないって、わたしは決めた。

「あのね、都丸くん」

 本当に、今までありがとう。

「わたし、あなたのことが──」