「おはようございます、近藤先輩」

 翌日の朝。登校時。

 昇降口から校舎へ入ると、毎日顔を合わせる人がいる。

「おはよう、都丸(とまる)くん。今日も朝から掃き掃除?」
「はい。校内清掃は、美化委員の仕事なので」

 そう言って、サッサと軽快なリズムと共に、ホウキで玄関のタイルを掃除するのは、わたしより一学年歳下の都丸くんだ。

 鈴木ちゃんと同い歳の、高校二年生。

 去年の都丸くんも、ホウキを持って玄関にいた。二年連続でこの委員会に立候補したという彼は、おそらく相当な綺麗好きなのだろう。

「今日はすごく暑いね。なんだかムシムシするし。放課後の部活も、かなり汗かいちゃいそう」
「はは。本当ですよね。でも、天気予報では午後から雨だと言っていましたよ」
「え、そうなの?」
「はい。だから少しは、涼しくなるかも」
「だといいなあ」

 外靴から上履きに履き替えながらする、何気ない会話。
 都丸くんの穏やかな喋り方は、聞いていて心地が良いなあ、と思う。

「ほら、笑ってください、近藤先輩」
「え?」
「ムシ暑過ぎるせいか、なんだか顔もムシッとしちゃってますよ」
「あはは。どゆこと」

 にっと口の端を上げる都丸くんを見て、わたしもにっと両方の口角を上げる。

「それじゃあまたね、都丸くん。また、放課後」
「はい。ではまた、この玄関で」

 校内美化活動に勤しむ都丸くんは、この後もまだ、朝のホームルームの予鈴が鳴るまで掃き掃除。

 そしてそれは、放課後も然り。

 部活動には入っていない彼なのに、驚くべきことに、どの部活よりも遅い時間まで、ここで掃除をしているのだ。