高鳴る胸を抱えながら、身を潜めてしばし経つ。
 すると先生方や用務員の方々の次に、生徒の中で一番最初に校舎へ足を踏み入れた、都丸くんの姿があった。

「あら都丸くん、おはよう。今日も早いのね」
「おはようございます、佐藤(さとう)さん」

 微かに聞こえる、そんな会話。

 おばちゃん用務員の人と軽い挨拶を交わした都丸くんは、自身の鞄を壁際に置いて、早速掃除の準備に取りかかる模様。

 ……と、思いきや。

 ん……?なにしてるんだろう、都丸くん。

 壁際に置いた鞄から都丸くんが取り出したのは、四つ折りの便箋のようなものだった。
 それを手に、真っ直ぐとある場所まで向かって歩く彼が、わたしの下駄箱に触れたから、思わず口に手をあてがった。

「う、うそ……」

 慣れた手つきでわたしの下駄箱を開けた都丸くんは、そこにその便箋を入れた。

 わけがわからず、混乱する。だってこんなの、信じられない。

 都丸くんが、手紙の差出人だったの……?な、なんで……?

 狼狽えるわたしの一方で、何食わぬ顔をして下駄箱を閉めた都丸くんは、これまた平然とした様子で、ホウキが入っている掃除用具入れへと足を進めた。

 わたしが今、身を潜めている扉付近。そこにその箱はあったから、彼はクリアガラス越しに、わたしの存在に気付くことになる。