よし、まだ誰も来てないねっ。

 翌日の早朝。早速行動に移したわたしの姿は、誰もいない校庭にあった。

 入学した頃から、校庭のフェンスに人がひとり通れるか通れないくらいの穴が空いていることを、わたしは知っていた。

 なかなか補修されないそこから不審者が現れることをずっと懸念していたが、まさかわたしが、その不審者になるとは思ってもみなかった。

 こそこそと、クノイチの如く歩みを進めて、玄関前まで辿り着く。
 校庭と玄関を隔てる扉の鍵は閉まっていたけれど、クリアガラスにへばり付けば、中の様子は容易く見渡すことができた。

 正体を教えてくれないなら、この目で確かめちゃうんだからっ。

 わたしが思いついた強硬手段とは、隠れて下駄箱付近を観察し、手紙を入れる現場を目撃することだった。

 じーっと玄関を凝視する。
 こんな犯罪じみた行為をしている最中でも、心の中は感謝でいっぱい。

 やっと、やっとだ。やっとお礼が言えるんだっ。差出人の正体がわかったら、まず最初になんて言おう。やっぱ「今までずっとありがとう」かな。
 だけどその前に、もしかしたらわたし、嬉しさのあまり抱きついちゃったりして。