それから一ヶ月が経過して、わたしは部活を引退した。

 最後の試合に負けてすぐ、突入した夏休み。

 バスケ一色だったわたしの世界は受験モードに切り替えられたはずなのに、いつもどこか、心の隅で、都丸くんのことを考える自分がいた。

 あの時の都丸くん、なにが言いたかったんだろう。

 あ、あの!近藤先輩!

 教室に向かおうとしていたわたしを、大声で呼び止めた都丸くん。あれだけふんだんに見つめ合っておいて、「なんでもないです」とはぐらかされた。

 都丸くんは今、なにをしているんだろう。
 誰かと遊んだりしてるのかな。

 彼と会えない夏休みが、なんだかやたらと長くて困る。
 こんな調子では、卒業した後が思いやられると感じてしまった。

「もしかしてわたし、都丸くんのこと好きなのかなあ……」

 それは出逢ったあの日から、少しは気付いていた気持ち。金木犀の香りじゃなく、本当は彼にドキッとしたのだと。

「都丸くん、好き……」

 ぽつり、自室の壁に向かって囁いた。
 無地なそこに浮かぶのは、都丸くんの爽やか笑顔。
 彼の声が木霊した。

 ほら、笑ってください、近藤先輩。

 早く、都丸くんに会いたい。